インタビュー特集

たくさんの出会いと学びがあるから、私は島で暮らし続ける道を選んだ。(卒業生インタビュー)

海士町で生まれ育ち、平成24年度に本校を卒業した増谷実香さん。卒業後は地元の郵便局に就職し、6年間勤めました。そして今年度からは、隠岐島前教育魅力化プロジェクトの総務スタッフとして活躍しています。「島に暮らし続ける」という選択をした増谷さんに、高校時代からこれまでを振り返ってもらいました。

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—島前高校に進学した理由は?
一番の理由は、自宅から近いから。本土の高校に行く理由もとくになかったので、迷うことなく進学しました。当時は高校の魅力化が始まったばかり。まだ1学年1クラスで、島外生は学年に7人だけでした。

—どんな高校生活でしたか?
うーん、いろいろありましたね。高校に行く意味がわからないというか、必然性に疑問を感じてしまって、悩んだ時期もありました。頭では学校に行かないといけないとわかっているのだけど、心がついていかなくて…。泣きながら学校に連絡したこともあります。地域国際交流部に所属して、1年生のときには2つ上の先輩たちが始めたヒトツナギに携わっていたんです。でも、ちょうどその年に東日本大震災があって、3月末の開催予定が夏に延期になりました。苦しいけど3月末までは頑張ろうと思っていたのですが、延期になってしまったことで気持ちを保ちきれなくて、そこで辞めてしまいました。最後までやり切りたかったなと、今はちょっと後悔しています。

—苦しい時期をどう乗り越えたのですか?
ヒトツナギから離れたことで心に余裕ができて、地域国際交流部の他の活動に力を入れられるようになりました。また、ずっと誘われていたバレー部にも入って、部活に打ち込むようになりました。心のモヤモヤが完全に吹っ切れたわけではありませんでしたが、自分がやりたいことができている状態を作れたことで、気持ちも前向きになっていきました。

—印象的な授業などはありますか?
島外からいろんな方が来て講演をしてくださったことが、印象に残っています。社会で活躍する方々の話を聞くのが、とても楽しかったんです。小さな島なので普段は人との交流は限られていますが、高校に入って島の外の人とふれあう機会が増えて、世界が広がりました。

—学習センターには通っていましたか?
はい。「夢ゼミ」も当時からありました。2年生後半からは、自分の興味のあることや夢について、「なぜそう思うのか?」、「その考えはどこから湧いてきたのか?」という問いかけや対話を通して深めていきました。

—どんなことについて深めていったのですか?
中学生の頃から続けている隠岐島前神楽について深掘りしていきました。当時は、「隠岐島前神楽=地域の伝統=継承すべきもの」と頭では思っていたものの、あまり深くは考えていなくて、とりあえず好きだから続けていきたいと思っていました。だから、夢ゼミ担当の藤岡さん(藤岡慎二氏:現・北陸大学経済経営学部教授・地域連携センター長)から「なぜ継承するべきだと思うの?」、「自分はどうしていきたいの?」と問いかけられるうちに、だんだん嫌になってしまって…。あるとき、「“好き”に理由はいるんですか!?」、「この深掘りって必要なんですか!?」と反発したことがあったんです。そしたら藤岡さんに、「問いかけをやめると、成長が止まるよ」と言われて…。グサッときました。考えるのを止めたら何も生まれない。ここで放棄したら、今後神楽を継承していくときにもつまずいてしまう。今すぐには答えは出ないけど、考え続けることを大切にしよう。藤岡さんのひと言をきっかけに、そう思えるようになりました。そして今も、自分にとって神楽はどういう存在で、自分はどうしていきたいのかを、常に考え続けています。

—高校卒業後の進路はどう決めていったのですか?
中学生の頃からなんとなく島で暮らし続けたいと思っていたのですが、高校3年間でその思いが一層強くなりました。一番の理由は、神楽を続けたいから。そしてもう一つが、島にいながらでも、いろんな人と交流し、多くを学べることを体感したから。他の離島だったら違ったかもしれませんが、幸いなことに海士町には全国から、世界から、いろんな人たちが来てくれます。そんな恵まれた環境なので、無理に島を出なくてもいいという結論に至りました。

—就職先として郵便局を選んだ理由は?
地域に根付いた、地域の方々のためになる仕事がしたいという思いがありました。あと、仕事をしながら神楽を続けるためには、しっかり休みが取れる仕事がいいなと思って(笑)。

同じく総務スタッフの石田さんと打ち合わせ中

—6年間の社会人経験を経て、魅力化に携わろうと思ったのはなぜですか?
高校生の頃の私から見た魅力化のスタッフの方々は、バリバリ仕事ができるすごい人たち…という印象でした。自分がスタッフとしてその環境に身を置いたら、大変なことが多いだろうけど、いっぱい学ぶことがあって成長できるだろう。そう思って、思い切って飛び込みました。実は、2年ほど前にも魅力化に携わらせてくださいと直談判したことがあったのですが、そのときはタイミングが合わずに採用してもらえなかったんです。そしたら今回、たまたまひょんなことから話しが出てきて。2年越しに夢が叶い、あのとき勇気を出して行動して良かったと改めて思いました。

—魅力化では初となる島前高卒スタッフです。意気込みを聞かせてください。
今は仕事を覚えるのに必死ですが、今後は総務として事務作業をするだけなく、積極的に高校生とも関わっていきたいと思っています。私は海士で生まれ育ってずっと海士にいるので、島を出て本土から島を見ることはとても大事だけど、島を飛び出すだけがすべてじゃないよ、ということは伝えていきたいですね。他のスタッフのように専門的なアドバイスはできないし話すのも得意ではないけど、話を聞くのは好きなので、生徒の話をたくさん聞きたいなと思っています。

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