インタビュー特集

自分と他者の共通点を見出し、互いの強みや良さを活かしあう関係性を築いていきたい(元教員インタビュー)

先日、2年生を対象をとして「世界史✕地域課題解決」をテーマに、久々に本校に戻って授業をされた中村怜詞先生(現島根大学准教授)にお話しを伺いました。

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– 今回の授業の目的を改めて教えてください。
目的は2つあって、1つは歴史と現代社会の問題を結び付けること、もう1つは、探究的な学習と教科学習を結び付けることです。
歴史って、時間的にも空間的にも生徒の日常と離れた世界のことを学ぶじゃないですか。だから、高校生の彼らからしたら、歴史を学ぶ意義って実感しにくいと思うのですよ。彼らの日常や、将来の生き方などに結び付いていることが彼らにとって学びの意義や価値になると思うんですよね。だけど、1,000年前の出来事をそのまま彼らの今に結び付けるのってさすがに無理がありますよね。


– 確かに1,000年前の出来事を今にはなかなか結び付けられない。
だから僕は見方・考え方で繋げるしかないと思ってるんですよ。歴史的な事象を分析して、どのような構造で当時の出来事が起きたのかを考える視点は、今の出来事を考える視点に繋がると。だから今回は歴史上の人口移動に焦点を当てて、現在島前地域に起きている人口流入という現象を見るということがしたかったんです。


– なるほど、そういうことだったんですね。
その結果、彼らの地域に起きている出来事を自分なりの見方で考えることができるようになれば良いなと。自分たちの地域を客観的に見ることで今まで見えなかった魅力や問題が見えてくれば、探究学習にも繋がります。探究的な学習も生徒たちが物事を多面的に見ることが出来なかったり、なぜそのような現象が起きているのかを深く掘っていくことが出来なければ表面的な学びになってしまったり、せっかく課題解決の実践までいっても効果の薄い実践になって自分の周囲を少しでも良くするって経験ができなかったり。それを教科の学びと結び付けることで前進させていくことができると良いなと思いました。


– 目的は達成されたんでしょうか?
50%は達成できました。


– 50%ですか?
はい。歴史と地域課題を結び付けて考えるワークとしては機能したと思います。
これも地域の方やIターンの方たちが参加してくださって、生徒と扱う題材の距離を縮めてくださったからだと思います。一方で、生徒に育てたかった「理由を持って判断する力」については、不十分だったなと思っています。
生徒たちがいかようにも分類できるなかで、なぜそのように分類したのか、そこについてはもっと我々教員サイドがファシリテーターとしてチームの壁打ち相手として参加してもよかったと思います。


グローカルヒストリーという教科で、日本史と世界史を混ぜて学ぶ意義や価値はどこにあると思いますか?
端的に言えば、学校が掲げる「グローカル人材」の育成です。
日本と外国のことを比較した時、僕たちってわりと「違い」にフォーカスすると思うんですよ。日本人と中国人の違いは何ですか?とか。もちろん、比較して自分たちの強みを理解していくようなことも大切なんですけど、これからは競争と同時に「共創」もできる生徒に育ってほしいなと思っています。


– 共に未来を創っていく仲間として諸外国の人と繋がっていこうとする姿勢が大切だと。
そうです。自分たちと他者の共通点を見出していったり、互いの強みや良さを活かしあう関係性を築いていきたいですよね。その時に、日本人ってなぜか欧米志向というか、ヨーロッパには憧れたりするけどアジアについてはネガティブな感情で見てしまうことも多いですよね。グローカルヒストリーでは、アジアをフィールドにしてヨーロッパから日本までがどのようにつながっていったのかを探究する科目です。学びの中で、互いに影響を与え合って文化を形成していることとか、日本の文化のルーツがアジアに多くあることなど、自分たちとの共通点を見出しやすくなるのではないかと思っています。


– 一般的に、歴史科目は
「なぜ過去の歴史を…?」と問われがちですよね。
「彼女の良さは別れて初めて気づく」って経験ない…、ですかね。今まさにお付き合いしているときって、なかなか相手のことを冷静に見ることができなかったりすると思うんですけど、別れてしばらく経つと、客観的に「今の自分があるのは彼女おかげだな…」とか妙に冷静に感謝の気持ちを噛みしめたりできるじゃないですか。それですよ!


– えーと…。
まぁ、真面目に答えると、過去の出来事って原因・結果・影響などすべてが出揃ってるんです。だから、当時の国家体制がどのような構造でできていたのかとか、どういう経緯でできたのかとか、客観的に考えることができるわけです。200年続いた王朝もあれば30年で滅びた王朝もあります。両者の違いが何だったのかを比較考察したり、長期続いた王朝の共通点を見出していく中で、人間が住みやすい国とそうでない国の違いを理解することができるようになります。
そうやって、国や地域の構造や政策、社会情勢などを紐解きながら、社会を見る視点を養います。冷静に客観的に「今」自分たちが過ごしている社会の問題や良さを見出したり、さらに良い社会にするために自分に何が出来るのか、どのような関わり方が出来るのか、それらを考えられるようになるためのトレーニングが歴史を学ぶということです。


– 約1
年振りに島前高校で授業をしてみて、生徒たちに変化はありましたか?
まずは落ち着きましたね。大人になったというか。振る舞いや言葉遣いひとつとっても、ガチャガチャしていないというか。
授業をしている時に感じたのは、協働性の成長です。自分と相手にとってより良い状況を創り出すような力、コンピテンシーの成長を感じました。議論をしていても、皆が自由闊達に意見を言い合えていたり。恐らく、自分たちで安心・安全な場を創ることが日常的にできているのだろうなと思いました。


– 2
年生がよりよくなるために、日々の授業で心がけたらいいことがあれば教えてください。
なぜを問うこと、考えたことを言葉にして記述することです。
今回の授業でも思いましたが、ある程度考えたところで思考停止している人たちが多く見受けられました。論理的に考え抜いていく力が今後の課題だと思います。それを鍛えるためには、なぜそのような分類にしたのか? 根拠は何か? なぜそう判断したのか?と批判的に問いを重ね合ったり、その説明を何となく話して終えるのではなく、きちんと文章にすることです。その過程で思考が明晰化していくので。


– 一方で、
先生たちにひとつだけアドバイスを送るなら、何を送りますか?
本気で協働するって楽しいですよ、ということです。
一生懸命は今できる範囲のことを手を抜かずにすることかなと。本気を出すってのは限界を超えようとすることかと思っています。自分の限界を超えた瞬間を味わったり、自分の成長を味わえるって嬉しいことだと思うんですよね。子どもの成長だけでなく、ご自身のことも大切にして、ご自身の成長も喜べる職場環境だと良いなと思います。
また、自分1人でなくて、チームで今までの限界を越えたり、成長を実感出来たら最高に楽しいなと思います。最近ブータンで大人の本気PBLをしてきて、最高に幸福度が上がりました。おすすめです。


– 中村先生、ありがとうございました!(ぜひまた来てください!)

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