インタビュー特集

高校 ✕ マリンポートホテル海士 「生活ビジネス教養」を振り返る(後編)

2018年度の「生活ビジネス教養」(3年生選択科目)では、本校とマリンポートホテル海士がコラボレーションし、生徒がホテルスタッフの「マイプロジェクト」を応援するという新たな取り組みを行いました。どのように授業を設計し、進めていったのか。生徒とホテルスタッフはどう関わっていったのか。マリンポートホテル海士の青山敦士社長、「生活ビジネス教養」担当の高木淳也先生、隠岐國学習センター長の豊田庄吾さん、コーディネーターの大野佳祐が1年間を振り返りました。

前編はこちらからご覧ください。

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– 具体的にどのように「応援」したんですか?

<豊田>
大切にしたのは「問いかけ」です。ホテルスタッフが自分のマイプロについて語って、それを聞いた高校生が、問いかけるんです。素朴な疑問なんだけど、本質的な問いが多い。「なぜ〜なのですか?」、「どうして〜だと思うんですか?」、「本当にそれが原因なのですか?」、「具体的には?」と問いをくり返すことで、課題の本質を突き詰めていく感じです。最初は「高校生に話してあげている」というスタンスだったホテルスタッフが、生徒が問いを重ねるうちに、真剣にメモを取りだしたりしてね。

<青山社長>
スタッフが学校に足を運ぶこともありました。高校生からの問いに答えているうちに、課題の本質が見えてきて、改めて気づくことも多くて。僕自身も、高校生のまっすぐな問いに何度も考えさせられました。

ホテルスタッフの方には何度も学校にお越しいただきました

<豊田>
後半は、ホテルスタッフに代わって高校生が宿泊業関係者にヒアリングに行ったりもしました。マイプロを進めるには誰に何を聞けばいいかを生徒自身が考え、自分たちが聞いてきたことをホテルスタッフに伝えるんです。ある生徒が島の民宿の親父さんに話を聞きに行ったら、「ホテルのライバルである民宿に話を聞きに来た意味がわかってるのか?」と言われて、ガチガチに緊張してね。でも、話をするうちに、「おまえら本当の味を知らんだろ」と言って、出汁の飲み比べとか米の食べ比べとかをさせてくれて。普段はメモなんて取らない生徒だったのですが、思わず手を動かしていましたね。

– 生徒やスタッフの変化はありましたか?

<豊田>
島前高校の生徒は議論や対話に慣れてはいるものの、「問うこと」が得意ではない生徒も少なくありません。どう問いかけたらいいか、自分たちには何が求められていて何をすべきなのかがわからず、最初は戸惑いもあったと思いますが、少しずつ問うことの価値を体験的に学んでくれたように思います。また、自分のWill(意志・やりたいこと)を中心としたマイプロを進めるのと、問いかけにより人のマイプロを応援するのとでは違いますからね。書く力についても、最初はリフレクションシートへの書き込みも少なかったんですが、振り返り記入欄を少しずつ大きくしていくことで、最後の方になると、生徒たちもびっしり書くようになりました。しめしめ、という感じです。

隠岐國学習センター長の豊田さん

<高木>
大人に問いかけるのは生徒にとってはハードルが高いことで、最初の頃は「いい質問をしなきゃ」というプレッシャーを感じていて、自分に自信がない生徒も多かったんです。でも、ホテルスタッフと関わっていくうちに「シンプルな問いでいいんだ」という気づきがあり、問いかけもうまくなっていきました。また、年上の人と話すことは、生徒にとってコミュニケーションの良い機会になったと思います。「いろんな視点で物事を考えられるようになった」と感想を書いている生徒もいました。

<青山>
僕としては、高校生の好奇心から湧いた純粋な問いは、これまでスルーしていた「なぜ・どうして」を改めて考えるきっかけになりました。地域からホテルがどう見られているかという点でも、気づきがありましたね。スタッフにも大きな変化がありました。以前は、自分のことを尋ねられること、自己開示することへの抵抗感がある人が多く、地域に対して積極的に課題や状況をオープンにしていく、という雰囲気ではありませんでした。それが、高校生の深い問いに答えるなかで、「自分を出していいんだ」という雰囲気に変わったように感じます。対外的にも、お客様以外のいろんな人に自分が働くホテルのことを話す機会を増やせるようになってきました。また、管理職層も問いかけの大切さを感じたと言っています。管理職から問いが出せるようになり、社内会議の空気も変わりました。

 

– 次年度に向けての課題や1年を終えてみての感想は?

<大野>
僕たち4人でのミーティングは頻繁にやっていましたが、生徒とホテルスタッフとの直接的なコミュニケーションがもっと取れたらよかったですね。ホテルスタッフが忙しくてなかなか会えないということもあったので、メールやSNSでやり取りするとか。

<青山>
そうですね。繁忙期は時間を取れなかったこともあり、ホテルとしてもっとできたことがあったのではないか、という反省点はありますね。

実際の現場で様々な体験をさせていただきました

<大野>
ちょっと話がズレますが、高校からホテルまでの移動をサポートするために、町役場がバスを手配してくれて。ありがたかったし、地域や行政が学校を支えてくれていることをうれしく思いましたね。

<豊田>
島前高校では自分がやりたいこと、つまり「Will」を考える機会はすごく多いんだけど、今回は自分のWillだけじゃ前に進めなかった。生徒たちは、人の一生懸命を応援することの難しさも実感したんじゃないかと思います。相手に関心を持たなければ深く入ることができませんしね。これってまさに、コンサルですよね。

<大野>
そうですね。今年度の生活ビジネス教養を改めて振り返ると、「問いのパワー」がカギだったかなと。問い直すことがいかにパワーを持つかを知ることが、この授業の意義だと思うんです。誰かが「教える」のではなく「問う」ことで、「本質を引き出す」。「〜なんてできない」という常識やあきらめを問い直すことが、教育や産業をはじめ、この地域に今改めて必要なことなのかもしれません。

<高木>
私も問いの力の重要性を改めて感じました。最初は本当にできるんだろうかという思いもありましたが、チームで取り組むことで自然と不安は消えていきました。1年間を通してひとつの企業に通い、ここまで内部に入り込むことは普通の高校ではありえません。生徒にとっても貴重な体験だったと思います。

「教員としても学びがあった」と高木先生

<青山>
僕らとしては、ここまで踏み込んでいいんだ、踏み込んだほうがいいんだ、という気づきが大きかったですね。言わない方がいいかなと思って抑えてしまうよりも、オープンにした方が間違いなく良いものができるということを肌で感じることができました。

<大野>
今回、高校とホテルがコラボしたように、境界線はないほうがいいと思うんです。科目を超えて、仕事を超えて、業界を超えて、それぞれに貼られたレッテルを剥がしつつ、開いて混ぜる。一緒にやる。これからは、それが大事になるんじゃないかと思います。

<豊田>
「開いて混ぜる」、大事ですね。課題はいろいろありますが、来年は生徒とスタッフとが「一緒につくる」をもっとできればいいなと思っています。

 

<青山>
ホテルとしても、事業と同じくらいコミットして教育とのコラボに本気で取り組みたいと思っています。

– 来年の授業も楽しみにしています。ありがとうございました!

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