インタビュー特集

授業スタイルを探究し続ける(教員インタビュー)

齋藤暁生
数学科/ヒトツナギ部顧問

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– 追究する授業スタイル

「iPadを使って問題を調べたいので、図書室に行って来て良いですか?」、「昨日は友達と一緒に問題を解いたけれど、今日は先生の授業を聞いて理解を深めたいです」。

そんな生徒たちの言葉に頷き、今日も齋藤先生の数学の授業は始まる。私自身、齋藤先生とは休日の島内行事で出会うことがある。先生は島内行事への参加はもちろん、ゴスペルや青空応援団などの参加を通して島前地域の活動に熱心である。常に新しいものに向かって興味の赴くままに歩いているという印象を受ける。生徒である私たちは、50分間の授業の中で試行錯誤することで、自分で設定した目標に近づく事ができる。

「自分で目標とやる気を持って取り組むことがまず大事。やる気が無かったら、三角比なんか誰もやらないし、やっても頭に入らないでしょ(笑)」。 そう語る齋藤先生の目標は「“みんなを自由に”すること」。その現れだろうか、例えば部活動時に偶然思いついた生徒のアイデアに対し、齋藤先生からは「まぁいいんじゃない?」というやりとりをよく目にする。しかし、それは放任されている訳ではなく、受け入れた上で齋藤先生自身の見解を付け加えているところが印象的である。自由と責任は表裏一体であると言われるが、齋藤先生の考える自由とは、一体どういうものだろうか。たった10分間の休み時間だけでは話が尽きず、放課後にお話を伺うことにした。

「常に僕の中では、どういう授業スタイルがしっくりくるかどうかを探究しているんです」。 その言葉どおり、齋藤先生の授業では生徒からの提案を積極的に取り入れている。「自己規律化達成シート」という毎時間の授業を振り返りを書くシートに生徒が意見や提案を書くと、次回の授業には実行されていることもある。さらに、一人ひとりの悩みや他愛ない愚痴に寄り添う丁寧なコメントも印象的で、それはまるで交換日記のようだ。

先生が授業スタイルを探究し始めたきっかけは、中学校教員時代の経験にあるという。授業スタイルに行き詰まりを感じていたその頃、様々な教育関連の本を読みながら、一斉授業、グループまたは個人での問題演習などの様々なスタイルで授業を行っていたが、どんな方法を採用したとしてもそのスタイルに合う生徒と合わない生徒がいることに気づいた。そこから考え出されたのが、一斉授業を受ける生徒、友人同士でグループを作り相談しながら進める生徒のどちらも尊重されるようなクラスづくりだった。

授業には、齋藤先生自身の学生時代の経験も活かされている。友人と協働しながら取り組んだ「数学のワーク問題の解説書作り」はそれによって生まれたスタイルの1つでもあり、私たちが教える立場に立つきっかけとなった。授業スタイルを考える上で常に念頭に置いているのは、隠岐島前高校の生徒の進路の多様さだという。それについて齋藤先生は、「授業を受ける目的も目標も意識も一人ひとり異なるし、逆にそれが隠岐島前高校の魅力。だからこそ、授業スタイルを工夫することによってその多様性を最大限に尊重したい」と語る。

こうして生徒が自分の意見を積極的に発信し、先生がそれを反映し続ける「先生と生徒でつくる授業」が成り立っているのだ。齋藤先生の授業を2年間受けて、私自身も変化したことがある。それは、交換日記のような気軽な感覚で自己規律化達成シートを書くことで、数学に取り組む目的を明らかにすることができたことだ。授業中でどこまで理解が進んだかどうかを可視化することで、テストまでの道のりを確認することができる。また、齋藤先生による公式の導き方や、数学の発展で得られる恩恵などの小話を聞くことも1つの楽しみである。

インタビューの終盤に、齋藤先生からこのような嬉しい言葉をいただいた。「インタビューを受けて、僕が目指しているのは ”生徒の意見を聴き続ける授業” なんだと分かった。それが僕の授業スタイルの本質なのかもしれない」。

 

– これからの暮らし方

自称「旅する教師」の齋藤先生。日本全国を旅し(特に離島に旅行するのが好きとのこと)、世界もアジアからアフリカまで15カ国以上を旅してきた。

そんな先生に島前での生活の第一印象を聞くと、「日本の他の地方では考えられないくらい若い世代が生き生きとしている」とのこと。こんな地域で働けたら幸せだろうな、と思ったそうだ。海士町で過ごした2年間を通して身についたことは「島のリズムに身を任せた生活」だという。島の自然や歴史、季節のお祭り、早々とシャッターを閉める商店など、島ならではの生活リズムに自分自身の働き方や生き方を合わせる。

最後に、齋藤先生がこれから隠岐島前地域でやってみたいことを聞いてみた。返ってきたのは、「島内でいろんなイベントをやってみたい」という答え。今までの「旅」で出会った教育関係・新聞記者・起業家・テレビマンなどの多様な知人を島に招待し、講演会を開きたいそうだ。そのような講演会を開催することにより、それらの方々が島を訪れ、彼らと生徒や島民が繋がるきっかけにしていきたいという。

齋藤先生の、生徒や隠岐島前地域に対するあたたかくも熱い思いが感じられるインタビューとなった。数学という教科や教員という立場にとらわれない自由な発想は、周囲の人々を繋ぐ力さえ持ち合わせているだろう。齋藤先生の目指す「自由」に辿り着く道中で、これから何が起こるのか楽しみだ。

文・写真 山中瑞歩(2年)

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