インタビュー特集

環境も自分自身も大きく変わったなか、神楽への気持ちだけは変わらなかった

先日の記事でも取り上げた島前地域の伝統芸能「島前神楽」。その若き担い手として期待と注目を集めるのが、本校3年の小櫻錬。西ノ島で生まれ育ち、幼い頃から神楽を続けてきた彼に、神楽への思いを聞きました。

写真でも気魄が伝わる小櫻の「切部(きりべ)」

– 島前神楽を始めたきっかけは?

始めたのは3歳のときです。断片的な記憶しかないのですが、幼い頃からなぜか神楽が好きで、親に連れられて同好会の練習を見に行っていて…。そこから始めました。最初は楽器から始めて、5歳くらいからは「先払い能」という基本的な動きのものをやるようになり、4年生まで続けました。その後は、いろんな演目を一つずつ覚えて、ようやく三つの演目ができるようになりました。

師匠のもとで学んでいるのですか?

はい。西ノ島では同好会のメンバーが月に数回集まって練習していますが、師匠に直接指導していただく機会は多くはありません。基本は、自主練ですね。映像を見て動きを研究したり、弟も神楽をやっているので、練習相手をしたりしています。最近は同好会に小学生も入ったので、僕が教えることもあります。師匠の足元にも及びませんが…。

背中を向けて鼕(どう)を打つのは難易度がものすごく高い

– どういうところが島前神楽の魅力だと感じますか?

代々受け継がれてきた伝統あるもので、昔のままの姿を残しているところだと思います。担い手として僕自身が魅力というか楽しさを感じるのは、やはりやっているときですね。暖簾をくぐって舞台に登場するのですが、そこでパーっと観衆の視線を集める瞬間がめちゃくちゃ気持ちいいんです。お面の下でニヤニヤしています(笑)。あとは、師匠や地域の方々に「良かったよ」と喜んでもらえたときは、やっぱりうれしいですね。

– つらいことや、神楽をやめたいと思ったことはありますか?

やめたいと思ったことは一度もないです。僕は元来、熱し易く冷め易い性格なのですが、神楽には飽きたこともありません。それは、やっていて純粋に楽しいから。思うようにできなくて悔しいというのはあまりないんですが、逆に、ここまでできたからOKと満足したことも一度もなくて。もっと上手くなりたい、もっと新しいことをできるようになりたいっていう気持ちが常にあります。どれだけ努力しても、し足りないんだけど、少しずつ良くなっていくとそれが楽しくて。……あ、一度、38度の熱があるなかでやったときは苦しかったです(笑)

– 島前神楽は小櫻くんにとってどんな存在ですか?

人生の最初の記憶が、神楽をやっているところなんです。だからもう神楽をやっていない自分は想像ができません。中学生の頃までは、神楽はただただ楽しいものだったのですが、高校に入ってからは神楽への向き合い方が変わりました。神楽の担い手が高齢化していて、僕らより若い世代は結構いるのですが、30〜40代がほとんどいないんです。島前神楽には25演目くらい台本があるのですが、自分はそのうち半分も知らないし、すでに途絶えてしまったものもあります。そんな状況に危機感を覚え、なんとかしたい、次の世代にしっかりと継承していきたいと真剣に考えるようになりました。

学園祭ではボイスパーカッションを披露。多才な芸術的センスを持つ。

– 高校生活は、その心境の変化に影響していますか?

そう思います。中学校までは、自分と同じような価値観を持った人の中で育ってきて、それが当たり前だと思っていました。それが高校でガラリと変わって…。全国からいろんな生徒が集まってきていて、今までに出会ったことのないような人、自分とはまったく違うものを持っている人がいることを目の当たりにしました。そういう考え方もできるんだとか、そんなふうに感じるんだとか、めちゃくちゃ刺激を受けて、自分の中で考え方の幅が広がった気がしています。最初は違いに目が向いていたのですが、次第に意外と共通点があるじゃないかと思うようになって…。

「こいつ、マジで無理だわ」と思っていた人ほど仲良くなったり(笑)。でも、そうやって島前高校に入って、環境も自分自身も変わったなかで、神楽への気持ちだけは変わらなかったんです。こんなにいろんなものが変わっても変わらなかったんだから、もう死ぬまでやるしかないというか、年寄りになってもやっているんだろうなと、ある意味腹をくくりました。神楽をやるために生まれてきた。今ではそう思っています。

– 最後に、今後の夢や目標を聞かせてください。

高校卒業後は、島を出て進学します。島前神楽の担い手として、進学することには迷いもありました。でも、神楽以外にもやりたいことがいろいろあるので、今は他のことにも挑戦したいと思って決断しました。もちろん、神楽は続けます。もっとたくさんの人に島前神楽に興味を持ってもらいたいので、今後は島前神楽について発信することにも力を入れたいと思っています。

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