インタビュー特集

主幹教諭対談 登城智宏先生 ✕ 岡本敏明先生

今年度から新たに学校に配属された主幹教諭の登城先生と岡本先生のお二人に、島前高校の「今」を語り合ってもらいました。

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アットホームな島の学校から、多くの人が関わる多様性ある学校へ

登城:
岡本先生は、2018年4月に埼玉県から派遣されるかたちで隠岐島前高校に来られたんですよね。最初の印象はいかがでしたか?

岡本:
そうですね、「普通の高校生だな」というのが第一印象でした(笑)。もちろん、良い意味で。島前高校はグローカルな視点での探究学習などの先進的な取り組みで全国的に知られていて、生徒についてもスーパー高校生のイメージが先行していたんです。でも、実際に生徒と話してみると、普通の高校生と同じようにいろんなことに悩んだり壁にぶつかったりしていて、安心しました。

登城:
なるほど。私は2004年度から2007年度までの4年間、島前高校に赴任していて、岡本先生と同じタイミングで10年ぶりに戻ってきたのですが、最初は少し戸惑いましたね。

10年振りに隠岐島前高校に戻った登城先生

岡本:
というと?

登城:
2004年度〜2007年度というのは島前高校の生徒数が一番減った時期でした。活気がなかったわけでは決してないのですが、生徒はほとんどが島前地域の子で、言ってみればのんびりアットホームな島の学校でした。それが、今回赴任してみたら、全国から集まってきた多様な生徒がいる。コーディネーターや学習センターのスタッフといった教員以外の人が学校に多く関わっている。そして、みんなが、地域を良くしたい、教育で島を変えていきたいという熱い思いを持っている…。そんな状況のなかで、自分の役目は何だろうか、自分には何ができるのだろうかと、問い直していきました。

岡本:
その気持ちはよくわかりますね。県外から来た自分に何が求められていて何ができるのかは、今も模索中です。登城先生がおっしゃるように、地域の人を含め、教員やコーディネーター、学習センターのスタッフといった大人たちが、みんな一生懸命に教育に向き合っていることに、私も感銘を受けました。教育に携わる者として当たり前のことではありますが、世間ではその当たり前ができない人が少なくないですから。

 

生徒が地域と直接つながり、たくさんの大人と関わり合う

岡本:
あと、島に来て驚いたのが、入学式の来賓が多いこと。60人あまりの入学者に対して地域からの来賓が20〜30名もいて、地域に根づき、支えられている学校なのだと実感しました。生徒が地域の人と関わる機会も多いですよね。

埼玉県から都道府県間人事交流で隠岐島前高校へ派遣されている岡本先生

登城:
そうなんですよね。普通に高校生活を送っていると、多くの場合は、学校の先生と親くらいしか大人に関わる機会ってないと思うんです。それが、島前高校の生徒は、探究活動などを通して、地域ともたくさんつながりがある。先輩が後輩にお世話になった地域の人を紹介したりもしているようです。

岡本:
私たち教員も、教員以外の人と関わる機会が多いですよね。役場の方とか地域の方とかと、生徒の話や教育の話をする。埼玉にいた頃は、そんなつながりはまったくと言っていいほどありませんでした。

登城:
岡本先生も、海士中学校で行われた「立春式」で、地域の大人を代表してスピーチをされましたよね。

岡本:
あれは緊張しましたね(笑)。自分が悩み苦しんでいることを伝えたうえで、「みんなだけじゃなく、大人もこうして模索しているんだよ」、「つい答えを求めてしまうけど、答えというのは与えられるものではなく創り上げるものだよね」というようなことを話しました。

登城:
大人たちが自分をさらけ出す、本気で生徒と向き合うというのも、島前の教育のあり方の特徴かもしれませんね。

 

地域をリソースとする教育は、生徒にも教員にもメリットがある

登城:
今年は、私たち主幹教諭とコーディネーターの中山隆さんの3人で、チームの働き方改革にも取り組みましたね。最初に取り組んだのが、「業務の見える化」でした。学校現場では、デスクが隣でもお互いが何をしているかが見えにくく、私たちのチームも、当初は「忙しそうだから声をかけづらい」という状況にありました。そこで、自分たちの業務をスプレッドシートに書き出し、各自のスケジュールと合わせて共有することを始めました。民間企業では珍しいことではないと思いますが、学校現場では画期的なことです。その結果、当初はぎくしゃくしていたチームの関係性が改善し、コミュニケーションも業務もとても円滑になりました。

岡本:
私たちの取り組み「学校業務見える化作戦 PBLを軸とした学校改善の実行」はNITS(独立行政法人教職員支援機構)の「第2回NITS大賞」にて審査員特別賞を受賞しました。来年度以降は、チームの取り組みを学校全体に拡大し、教員の負担軽減につなげていきたいですね。最近、教員の労働時間超過が問題になっていますが、教員が生徒のためと業務を抱え込んでしまっていることが原因のひとつだと思います。教員の力には限界があります。これからは、地域の人たちの支えや協力を得ながら子どもたちを育てていく、という地域をリソースとする教育を浸透させていくことが重要だと思います。

登城:
そうですね。学校現場に余裕が生まれれば、生徒と向き合ったり教員同士で話し合ったりする時間が取れます。これは結果的に、生徒にとって良いことになると思うんです。また、教員自身が悩みながらも前向きに取り組み、挑戦する姿は、子どもの学びにもつながると思います。授業でも、先生が楽しんでいない授業は、生徒も面白くないですよね。そういう場をどう作っていくか、全体を俯瞰しながら指導していくのが、私たち主幹教諭の役割なのかなと思っています。

岡本:
そうですね。私たち自身も試行錯誤の連続ですが、これからもより良い学校づくり、先生も生徒もいきいきと学び合える学校づくりに取り組んでいきたいと思います。

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