インタビュー特集

高校 ✕ マリンポートホテル海士 「生活ビジネス教養」を振り返る(前編)

2018年度の「生活ビジネス教養」(3年生選択科目)では、本校とマリンポートホテル海士がコラボレーションし、生徒がホテルスタッフの「マイプロジェクト」を応援するという新たな取り組みを行いました。どのように授業を設計し、進めていったのか。生徒とホテルスタッフはどう関わっていったのか。マリンポートホテル海士の青山敦士社長(写真中右)、「生活ビジネス教養」担当の高木淳也先生(写真左)、隠岐國学習センター長の豊田庄吾さん(写真中左)、コーディネーターの大野佳祐さん(写真右)が1年間を振り返りました。

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– 高校とホテルがコラボすることに至った経緯を教えてください。

<青山社長>
大野さんと僕とで島の課題を語り合うなかで、出てきた話なんです。島前高校を卒業した生徒には将来的に地域に戻ってきてほしいと思うけども、地域に受け皿となる就職先があるのかというと、現状では十分にはない。教育と産業とどちらも充実させていかないと、この地域に未来はない。じゃあ一緒に何かやろうよ、ということになりました。

<大野>
青山さんとそんな話をしたのが昨年度末でしたね。「生活ビジネス教養」という科目は従来からあったのですが、座学が中心の予定でした。地元の企業でのインターンシップもやっていたものの、数日〜1週間程度と短期間で、生徒にとっては「お試し感」、受け入れ側にとっては「お客様感」があり、表面的なものになりがちでした。

<青山社長>
ホテルでもインターンシップを受け入れていましたが、短期間だと負担はあるものの実はメリットはあまりなくて。そこで、高校生とホテルスタッフとが長期的に関わり合うかたちでやろうということになりました。

<豊田>
僕らとしては、「島まるごと教室に」という島前高校の学びのコンセプトをより具現化したいという思いがあったので、いいチャンスだなと。

<高木>
生活ビジネス教養を選択するのは、専門学校への進学や就職を希望する生徒がほとんどです。卒業後、早い段階で社会に出る生徒たちですから、もっとリアルな社会体験をさせたいという思いはありました。教室での学びだけでは限界があるというのも痛感していましたが、最初コラボの話を聞いたときは、「え、そんなことできるかな?」と半信半疑でした。

青山社長と生徒もこの距離感で

 

– 授業内容はどのように詰めていったんですか?

<青山社長>
ホテル側にとってどういう文脈でやるかと考えたときに浮かんだのが、スタッフの負担にならないよう、かつ、スタッフのスキルアップにもつながるような内容にしたいということでした。

<大野>
インターンシップだけだと高校生が主体になりがちなところを、ホテルスタッフも主体的に関われるもの、ホテルスタッフの学びにもなるものにしようと。

<青山社長>
ホテルとしては、スタッフが外部の人とコミュニケーションをとる機会が不足しているという課題がありました。対お客様とのコミュニケーションはあっても、地域に出ていくことがあまりなくて。それもあって、自分が代表に就任した2年前からは社員育成に力を入れ、豊田さんに研修をしてもらったこともあります。その一環で取り組んでいるのが、社員が自分で課題を設定して取り組む「マイプロジェクト(マイプロ)」です。例えば、僕だったら「ホテルの情報発信の精度を高くする」、ある厨房スタッフだったら「地元の未活用食材を活用する」、あるルームスタッフだったら「ホテルを彩る」など、社員それぞれがマイプロを持っているんです。

実際のルーム準備の体験も

<豊田>
高校や学習センターでも探究学習でマイプロに似た取り組みをしており、生徒たちはいわば経験者です。そこで、「ホテルスタッフのマイプロを応援しよう」を軸に、授業を構成していくことになりました。

<高木>
最終的には、長期インターンをしながらホテルスタッフのマイプロを応援する、というスタイルになりました。授業は火曜日の1・2限と水曜日の5限を1セットとし、火曜はホテルに足を運び、水曜は教室で振り返りをする時間としました。

 

– 実際に授業が始まってみて、どうでしたか?

<青山社長>
最初、ホテルのスタッフとしては戸惑いが大きかったです。「え、高校生とやるの?」という感じ。スタッフの自己開示に時間がかかりましたね。

<高木>
年度始めの頃は、火曜日はインターンとしてホテルでベッドメイキングなどの作業をして、水曜日はリフレクションシートに前日の気づきなどを書いて、グループや全体で共有していました。シートに記入するコメントも少なかったですね。

だんだんと真剣味が増していった現場

<豊田>
当初は、マイプロの応援についてはあまり活発ではなかったですよね。生徒たちはホテルにもっと足を運びたいけど、ホテル側は忙しいから時間が取れない…という噛み合わない時期もありました。

<青山>
スタッフ側に「(自分たちが生徒を)教えなきゃ、指導しなきゃ」という意識があったんだと思います。授業の一環なので、そういう意識が生まれるのは当然といえば当然ですが。

<大野>
ゴールデンウィーク明けくらいから、ホテルの仕事を手伝う・体験するから、ホテルスタッフのマイプロを応援する・伴走するへと生徒たちが変わっていきましたよね。

 

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どのように生徒たちが、ホテルスタッフが変わっていったのか。
後編につづきます。

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