日々の実践

市川力さんによる「夢探究Ⅰ × “Feel ℃ Walk”」を行いました

7月8日(月)、探研移動小学校を主催する市川力さんとのコラボレーションによる夢探究Ⅰの授業が行われました。

5時間目が始まる13時20分、1年生の生徒全員が、体操服に着替えて玄関前に集合。いったい何が始まるのでしょうか?

徐々に1年生たちが集まってきました

コーディネーターの澤さんによる前回の振り返りに続き、市川さんが自己紹介をされました。

「みなさん、こんにちは。市川力です。普段、子どもたちからは“おっちゃん”と呼ばれています。この授業は夢探究ですが、みなさんは探究と聞いてどんな言葉を思い浮かべますか?」

生徒からは、「冒険」、「何かを探すこと」という回答が。市川さんはにこやかに続けます。

「探究」と聞いてどんな言葉を思い浮かべますか?

「そうですね。今日はみなさんにこの島を冒険していろんなものを探してもらいます。でも、最初から何かすごいものを見つけようとしないでくださいね。私の探究の講座では、次の3つのキーワードを大事にしています。——なんとなく、とりあえず、そして、ひたすらに。これから1時間、島を歩いていろんなものを見つけてきてもらいます。なんか気になる、おもしろそう…と思う、本当に些細なことでOKです。とりあえず、なんとなく、ですからね。1時間で戻ってこられる範囲なら、どこへ行ってもOKです」

市川さんは、この授業までに島を歩きまわって、おもしろいものをいろいろと発見したそうです。その様子をキラキラした表情でものすごく楽しそうに語る先生に、生徒たちも「ん? なんかおもしろそう」と心が動き出したようです。4人1組になって、四方八方へと散っていきました。

散っていく生徒たち。いい背中してます。

——1時間後、すべてのグループがドロップアウトすることなく(!?)戻ってきました。「みんな帰ってきたねー。どこまで行ってたんだろうね」と市川さん。やはりその目は、好奇心でキラキラしています。その後は教室に移動し、何を見つけたのかを全員で共有しました。

「今日みんながやったのは、Field Work(フィールドワーク)です。Fieldは野という意味なので、野に出てリサーチを行うということなんですが、私はこれを“Feel ℃ Walk”と名付けています。“感じる温度を上げるために歩く”ということですね。“〜をするためにリサーチに行きましょう”という目的や課題を持った調査ではなくて、感じるままに歩き、何かを見つける。これ何につながるの?…ということを拾ってくる。これが “Feel℃ Walk” です。目的を持って何かを見つけに行くんじゃなくて、見つけたものがフィールドワークのスタートになるんです」

さて、生徒たちはどんなもの(疑問)を見つけたのでしょうか…? その一部をご紹介します。

・海士の家はどうして玉ねぎを吊るしているのか?
・ケンカ売っているような顔のタヌキの置物があった
・御蔵神社から森へ入ったらヘビやトカゲがいてキノコが生えていた。その道をさらに進むと、高校の野球場の裏に出た
・でかい芋虫を救助した
・波の音を聞くとどうして眠くなるのか?
・レインボービーチの名前の由来は?
・海に脱皮したてのカニが二匹いた。甲羅がプニプニしていた
・お地蔵さんが並んでいる場所があって、あそこの花は誰が活けてるのか?
・レインボービーチの砂はどこから持ってきたのか?
・木の実とか拾ってみんなで「カワイイ」と言い合ったが、「カワイイ」って何だろう?
・海士にはなぜ信号が1台しかないのか

生徒たちの発表に相槌を打ったりツッコミを入れたりしながら、誰よりも興味津々な様子で聞き入る市川さん。先生が発する「楽しい」「おもしろい」という空気感が、生徒にもどんどん伝染していくのが感じられました。

「みんなは1時間、寝ることもサボることもできたなか、全員が“Feel ℃ Walk”をしてくれました。これって何だろうという疑問やどう化けるかわからないものは、財産。今後みなさんが探究やフィールドワークをするときの起点になるはずです。そして、これをきっかけに、島の何かが見えてくるはずです。実は探究のタネってたくさんあるんだということがわかってもらえたと思います」

最後に市川さんは、「禺」の字を使って、こんな話をしてくださいました。

「“禺”というのは、動物のナマケモノを表した文字で、ぼーっとしたり、ゆるりとしたり、ナマケモノのような気持ちでいることです。これににんべんが付くと“偶”ですね。人がたまたま拾う、とらえる。へんをしんにょうに換えると、“遇”、出会う。そして、下に心を置くと、“愚”。意味があるかわからないけれど、それを愚直にやる。さらに、こざとへんにすると、“隅”。隅っこだけをずっと愚直にやり続ける。そして、うかんむりにすると、“寓”。寓話、物語です。つまり、ゆるりとした気持ちで歩いて偶然出会ったタネを拾い、そのタネから始まる一つのことをひたすら愚直に追い続けることで、誰も作ったことのない物語を創造できるのです。探究のタネ探しを、これからも続けてくださいね」

市川さんの“Feel ℃ Walk”の手法や考え方は、生徒にとってはとても新鮮に感じられたようです。また、これまでは「探究活動=課題を自ら見つけ出し、見つけ出した課題を解決するために行う活動」というどちらかと言うと目的先行型の思考で動いてきた教員やコーディネーターにとっても、学びの多い授業となりました。

授業を終えた生徒たちの感想をいくつかご紹介します(原文ママ)。

◆新しい発見があっておもしろかった。
◆探検=発見しようとして歩くのは難しいけど新鮮だった。
◆地域の疑問を考えたことがなかったのでとてもよい思い出になった。またフィールドワークしたい。
◆地域に出ることでいつも気づかなかったような何気ないことに気づけた。もっと何気ないことを大切にして生きていきたい。
◆フィールドワークは目的をもってするものだと思っていたが、そうじゃなくても自分のためになると気づいた。なんとなく、とりあえず、ひたすらにフィールドワークしていきたい。
◆歩き回ると、気になることや不思議なことがたくさんあるんだと気づいた。普段は気づかないところに目をむけ、何かを発見するのはおもしろかった 。
◆人間は自分に近いものほどあまり見ないのかも。それが「おもしろい」と思った。
◆条件がなく、問いの範囲がひろかったので、のびのびと活動できました。気持ちの持ちようで、様々なことが良くも悪くも変わることに気づいた。心を充実させ、いろいろなことに気づけるようになりたい。

生徒たちが“Feel ℃ Walk”で見つけた探究のタネたち。これからどんなふうに芽を出し枝葉を広げていくのか楽しみです。

市川さん、ありがとうございました!

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