校長室より

令和元年度卒業式 校長式辞

令和最初の卒業式が厳粛であたたかい雰囲気の中で執り行われました。
新型コロナウィルスの影響で限定的な内容ではありましたが、保護者の皆さまのご臨席を賜り、挙行できましたことを心より感謝申し上げます。卒業生61名は、新天地での期待や不安を胸に新しい生活へと踏み出していくことでしょう。卒業後も豊かで実り多い日々を過ごしてもらいたいと願っています。卒業式での校長式辞を校長室より発信します。

答辞を読む3年生の渡邊大陽

送辞を読む2年生の後藤唄と卒業生61名

 

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令和元年度 島根県立隠岐島前高等学校 卒業証書授与式  校長式辞

春の息吹が感じられる今日この佳き日、令和元年度第55回卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生はもとより、私たち教職員及び在校生にとって大きな喜びであります。

保護者の皆様におかれましては、今日のお子様の成長された姿に感慨も一入のことと存じます。ご卒業をお慶び申し上げますとともに、これまで私どもが賜りましたご理解とご協力に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

ただいま卒業証書を授与した61名の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとう。教職員一同、心より祝福いたします。

この日を迎え、卒業生の皆さんは今、どのような光景や思いが脳裏に去来していますか。きっと誰もが、島前に吹く風とともに印象深い場面が甦ってくることでしょう。それらすべてが「経験」という名の財産であり、かけがえのない貴重なものとして、皆さんのこれからを確かに支えてくれるはずです。

4月の「歩こう会」、入学当初は海士町、2年時は知夫村、3年では西ノ島町、3年間で島前地域を歩き尽くしました。多文化協働のもとで地域をフィールドに探究する力をつける、島前高校ならではの行事のひとつでした。2年次の「シンガポール研修」、不慣れな外国での生活体験や現地大学生との交流、英語でのプレゼンテーションなど、高い壁をひとつずつ越えていく、思い出深い、有意義な研修となりました。3年次の「学園祭」、生徒会が中心となった新たな企画により、生徒一人ひとりが大きな輝きを放ってくれました。PTAや卒業生会、そして地域の方々との絆、結束力を高める絶好の機会にもなりました。入学時からの「夢探究」や「地域生活学」「地域地球学」などを通して、しっかりと鍛えてきた探究スキルが、「学園祭の形で具現化した」、他校には真似のできない、本校ならではの誇らしい行事でした。

皆さんが進むこれからの社会は、変化の著しいものとなるでしょう。「十年一昔」では到底済まない、一年一年そのものが変わり続け、世にいう常識がすぐに変わってしまう、激しい変革に戸惑うことも多いと思われます。AI(人工知能)が凌駕し、人間の尊厳が脅かされることも増えるでしょう。そんな時、本校で培った多文化協働力や探究実践力、グローカルセンスを存分に発揮し、焦らず、慌てず、挫けずに、地に足の着いた実践を心掛けてください。本校で確実に学びを重ね、成長を遂げた経験者である皆さんは、新しい変動社会が求める人材であり、これからの社会を生き抜く実践者となってくれることと信じています。

今日で皆さんにお話しすることも最後になりますが、最後に伝えておきたいことが3つあります。1つは、人格形成の自覚についてです。一般的にわれわれの人格は、概ね20年で完成すると言われます。私事で言うならば、歳を重ねても、「ああ、変わってないな、昔のままだ」と自分にむかって悔やみながら呟くこともしばしばあります。また、学生時代の友人が集まると、良くも悪くも、昔のままの友人たちがそこにいます。つまり、人間の人格は、20年前後で完成され、その後、経験から多少の知恵は身に着けたとしてもその本質は変わらないということです。人格とは人柄、他人に対する思いやりや物事を謙虚に受け止められる資質は、自分の可能性を大きく広げ、一方で、言い訳や他人の悪口を重ねるような言動は社会のなかで受け入れられる要素はありません。皆さんがこの3年間多様な人間関係のなかで学んだことは、皆さん一人ひとりの人格形成に大きな影響を与えているはずです。まずそのことを認識し、さらに卒業後の2~3年が人生を送るうえでの基盤を作る重要な時期だということをしっかりと自覚して本校を巣立ってもらいたいと切に願います。

2つ目は、物事を成そうとする強い思いについてです。このことについては、稲盛和夫さんの著書「生き方」から引用して、この1年折に触れお話をしてきたことでもあります。実現の射程内に呼び寄せられるのは自分の心が求めたものだけであり、まず思わなければ、かなうはずのこともかなわない。その人の心の持ち方や求めるものが、そのままその人の人生を現実に形づくっていくのであり、事をなそうと思ったら、まずこうありたい、こうあるべきだと思うこと。それも誰よりも強く、身が焦げるほどの熱意を持って、そうありたいと願望することが何より大切になってくる。すべての始まりは、強い思い。その思いは、いわば種であり、人生という庭に根を張り、幹を伸ばし、花を咲かせ、実をつけるための、もっとも最初の、そしてもっとも重要な要因であると。心が呼ばないものが自分に近づいてくるはずはないという、生き方の本質を大切にしてください。

3つ目は、隠岐島前高校の卒業生であること、その誇りをいつまでも持ち続けてほしいということです。全国各地から、この島前地域で学びたいという強い志を持って入学してきた生徒とこの地に息づく伝統・文化のなかで育ってきた生徒が協働し、自分の夢実現に向かって歩んだこの3年間は、皆さんにとってかけがえのないものでしょう。私は、昨年4月、大阪で3年ごとに開催される家督会関西支部同窓会に参加させていただきました。分校定時制1期生の方から昨春卒業した54期生まで140名程の参加があり、歳を重ねるほどに募る故郷、そして母校への想いを直接伺うことができました。今年度は、家督会に青年部が発足し、12月に東京で、また、2月には松江で同窓会が開催され、多くの卒業生が参加されました。この卒業生のネットワークは、今後益々広がり、活発になっていくものと確信しています。皆さんには、同窓生との関りをいつまでも大切にし、母校を誇らしく思う気持ちを持ち続けてほしいと思います。われわれ教職員は、卒業生の皆さんがいつまでも誇れる母校であり続けられるように努力を怠らずに続けていきます。

今年は、オリンピックイヤー(「東京2020オリンピック・パラリンピック」)です。4年に1度のスポーツの祭典は多くの人の関心事であり、国内開催となればどうやって楽しもうかと考えている人も多い事でしょう。私もその一人ですが、競技の他に私が注目しているのは、東京オリンピック公式記録映画です。監督は河瀬直美さんという方で、これまでにもドキュメンタリー映画など印象的な作品を手掛けておられます。人とのつながりや自分が大切に持っているものをもっともっと知ってもらいたいという強い思いを持った河瀬監督が紡ぐオリンピックというストーリーが、ただ単なる記録映画ではなく、ここからつなげて未来をつくっていくという強いメッセージ性を持つものになることを期待しています。撮影に臨む決意を、河瀬さんは「つながりのはじまり」という言葉で表現しています。この島前地域を取り巻く海は、隔てるものではなく、つなぐものと考えることができます。日本中どこへ行こうとも、また世界中どこへ行こうとも、この海によって、またかけがえのない思い出によって、皆さん一人ひとりと島前はつながっています。

さて、皆さん、いよいよ本校を巣立つときが来ました。社会は君たちを必要としています。島前高校での学びに誇りを持ち、時には、「真理・理想・進取」この校訓の精神を思い出しつつ、前進を続けてください。皆さんが、本校での、そして島前地域での出会いを「つながりのはじまり」と捉えて、今後、益々飛躍されることを期待しています。

皆さんの前途に幸多からんことを心よりお祈りし、式辞といたします。

令和2年3月1日
島根県立隠岐島前高等学校  校長 井筒 秀明

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