校長室より

令和2年度卒業式 校長式辞

令和2年度卒業式がオンラインで執り行われました。
新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からオンラインでの実施となりました。3年生にとっては集大成となる卒業式がこのようなかたちとなってしまいましたが、保護者の皆様の(オンラインでの)ご臨席も賜り、挙行できましたことを心より感謝申し上げます。卒業生48名は、新天地での期待や不安を胸に新しい生活へと踏み出していくことでしょう。卒業後も豊かで実り多い日々を過ごしてもらいたいと願っています。卒業式での校長式辞を校長室より発信します。

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令和2年度 島根県立隠岐島前高等学校 卒業証書授与式 校長式辞

春の息吹が感じられる今日この佳き日、令和2年度第56回卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生はもとより、私たち教職員及び在校生にとって大きな喜びであります。

保護者の皆様におかれましては、今日のお子様の成長された姿に感慨も一入のことと存じます。ご卒業をお慶び申し上げますとともに、これまで私どもが賜りましたご理解とご協力に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

ただいま卒業証書を授与した48名の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとう。教職員一同、心より祝福いたします。

今日のこの式には、卒業生を代表して2名に参列をしてもらいました。この日を迎え、卒業生の皆さんは今、どのような思いが去来していますか。おそらく、在学中の印象深い場面が一人一人の脳裏に甦ってきていることでしょう。それらすべてが「経験」という名の財産であり、かけがえのない貴重なものとして、皆さんのこれからを確かに支えてくれるはずです。コロナ禍にあったこの一年、様々な活動に制限が掛けられる中、現実をしっかりと受け止め力強く歩もうとする皆さんの姿が随所に見られました。猛暑の中で行われた碧燎祭は、内容を精選し時間を短縮しての実施となりましたが、生徒会執行部を中心に準備を進め、各組が団結した応援合戦や色の特徴を活かしたデコレーション、そして衣装を披露してくれました。体育祭の競技や応援合戦で全力を出し合い覇を競っても、終われば互いを讃え合う島前高生らしい姿が特に印象に残りました。2年次のシンガポール研修、不慣れな外国での生活体験や現地大学生との交流など、思い出深い、有意義な研修となりました。特に、探究学習の英語によるプレゼンテーションと質疑応答には、事前の準備にも相当な時間を費やした甲斐があり、高い壁を一つずつ越えていく充実感が見て取れました。入学時からの「夢探究」や様々な活動を通して、しっかりと鍛えてきた探究スキルの成果が見られた、他校には真似のできない、本校ならではの誇らしい行事でした。

皆さんが進むこれからの社会は、変化の著しいものとなるでしょう。「十年一昔」では到底済まない、一年一年そのものが変わり続け、世にいう常識がすぐに変わってしまう、激しい変革に戸惑うことも多いと思われます。そんな時、本校で培った多文化協働力や探究実践力、グローカルセンスを存分に発揮し、焦らず、慌てず、挫けずに、地に足の着いた実践を心掛けてください。本校で確実に学びを重ね、成長を遂げた経験者である皆さんは、新しい変動社会が求める人材であり、これからの社会を生き抜く実践者となってくれることと信じています。

今日で皆さんにお話しすることも最後になりますが、最後に伝えておきたいことは二つです。
一つは、物事を成そうとする強い思いについてです。このことについては、これまで折に触れお話をしてきたことでもあります。「実現の射程内に呼び寄せられるのは自分の心が求めたものだけであり、まず思わなければ、かなうはずのこともかなわない。その人の心の持ち方や求めるものが、そのままその人の人生を現実に形づくっていくのであり、事をなそうと思ったら、まずこうありたい、こうあるべきだと思うこと。それも誰よりも強く、身が焦げるほどの熱意を持って、そうありたいと願望することが何より大切になってくる。すべての始まりは、強い思い。」これは稲盛和夫さんの著書からの引用です。高校を卒業し自立していく君たちに求めることは、まず、その強い思いを具体的なビジョン(長期目標)に置き換えることです。目的は何で、自分はどこを目指すのか、そして、今、何に全力で向き合うべきなのかをしっかりと自覚して取り組むことです。卒業後の2~3年が人生の勝負の時期と考えて、自分の進むべき方向を見極めてください。

二つ目は、隠岐島前高校の卒業生であること、その誇りをいつまでも持ち続けてほしいということです。全国各地から、この島前地域で学びたいという強い志を持って入学してきた生徒とこの地に息づく伝統・文化のなかで育ってきた生徒が協働し、自分の夢実現に向かって歩んだこの3年間は、皆さんにとってかけがえのないものでしょう。平成22年度から始まった学校魅力化の取り組みも11年を経過しますが、この間、本校の歴史には着実に新たな歩みが加わってきています。昨年度は、家督会に青年部が発足し、東京や松江で同窓会が開催され、多くの卒業生が参加されました。今年度は、コロナ禍にあって同窓会は開催できませんでしたが、多くの卒業生が学校ホームページを通じて後輩への力強いメッセージを発信してくれましたし、オンラインによる学校説明会でも自身の経験に基づく貴重なアドバイスを送ってくれました。この卒業生のネットワークは、本校の持つ強みであり、今後益々広がり活発になっていくものと確信しています。皆さんには、同窓生や本校卒業生との関りをいつまでも大切にし、母校を誇らしく思う気持ちを持ち続けてほしいと思います。われわれ教職員も、卒業生の皆さんがいつまでも誇れる母校であり続けられるように努力を怠らずに続けていきます。

今年はわが国で2度目の夏季のオリンピックが開催される年でもあります。現実的には、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染状況や国内における様々な障壁など超えなければならないハードルは多く、開催に向けて懐疑的な見方も少なくありません。生徒会誌「うみなり」の巻頭挨拶でも触れましたが、「つながりのはじまり」この言葉は、東京オリンピック・パラリンピックの公式記録映画の監督である河瀬直美さんが撮影に臨む決意を表したものです。このような状況の中で、河瀬さんは、「五輪自体も、コロナ禍という警鐘を経て、本来人類にとって大切であった形に、また、根本にあった哲学に近づくといい。大会で目指すのは勝ち負けだけではなく、今だからこそ国を超えて、競技でつながり合いたいのだ」と言っておられます。開催まで残すところ5ヵ月を切りましたが、様々な困難を克服し、国民の多くがが安心して開催を望む状況になることを願っています。

その河瀬さんの「つながりのはじまり」という言葉にあるように、この島前地域を取り巻く海は、隔てるものではなく、つなぐものと考えることができます。日本中どこへ行こうとも、また世界中どこへ行こうとも、この海によって、またかけがえのない思い出によって、皆さん一人ひとりと島前はつながっています。さて、皆さん、いよいよ本校を巣立つときが来ました。社会は君たちを必要としています。島前高校での学びに誇りを持ち、時には、「真理・理想・進取」この校訓の精神を思い出しつつ、前進を続けてください。皆さんが、本校での、そして島前地域での出会いを「つながりのはじまり」と捉えて、今後、益々飛躍されることを期待しています。

皆さんの前途に幸多からんことを心よりお祈りし、式辞といたします。

令和3年3月1日
島根県立隠岐島前高等学校  校長 井筒 秀明

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