校長室より

令和3年度卒業式 校長式辞

令和3年度卒業式がオンラインで執り行われました。
新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からオンラインでの実施となりました。3年生にとっては集大成となる卒業式がこのようなかたちとなってしまいましたが、保護者の皆様の(オンラインでの)ご臨席も賜り、挙行できましたことを心より感謝申し上げます。卒業生42名は、新天地での期待や不安を胸に新しい生活へと踏み出していくことでしょう。卒業後も豊かで実り多い日々を過ごしてもらいたいと願っています。卒業式での校長式辞を校長室より発信します。

 

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令和3年度 島根県立隠岐島前高等学校 卒業証書授与式  校長式辞

厳しい冬の時期を越え、確かな春の息吹が感じられる今日この佳き日、「隠岐島前高等学校の魅力化と永遠(とわ)の発展の会」会長 大江 和彦海士町長様のご臨席のもと、令和3年度第五十七回卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生はもとより、私たち教職員及び在校生にとって大きな喜びであります。

保護者の皆様におかれましては、今日のお子様の成長された姿に感慨も一入のことと存じます。ご卒業をお慶び申し上げますとともに、これまで私どもが賜りましたご理解とご協力に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

ただいま卒業証書を授与した四十二名の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとう。教職員一同、心より祝福いたします。

今日、この日を迎え、卒業生の皆さんは今、どのような思いが胸に去来していますか。おそらく、在学中の印象深い場面が一人一人の脳裏に甦ってくることでしょう。それらすべてが「経験」という名の財産であり、かけがえのない貴重なものとして、皆さんのこれからを確かに支えてくれるはずです。この2年間、コロナ禍にあって様々な活動に制限が掛けられる中、現実をしっかりと受け止め力強く歩もうとする皆さんの姿が随所に見られました。今年の碧燎祭も昨年に続き、内容を精選し時間を短縮しての実施となりましたが、3年生のリーダーシップのもと、各組が団結した応援合戦や色の特徴を活かしたデコレーション、そして衣装を披露してくれました。体育祭の競技や応援合戦で全力を出し合い覇は競っても、終われば互いを讃え合う島前高生らしい姿が特に印象に残りました。2年次のシンガポール研修は、当初の予定を変更して2月に島前地域で代替の研修を実施しましたが、事前準備がしっかりとできていた夢探究の最終プレゼンテーションや島前三町村のローカル探究にチームワークよく取り組んでいる姿が印象的でした。1年次からの総合的な探究の学習をはじめとする様々な活動を通して、しっかりと鍛えてきた探究スキルの成果が見られた、他校には真似のできない、本校ならではの誇らしい行事でした。

皆さんが進むこれからの社会は、変化の著しいものとなるでしょう。「十年一昔」では到底済まない、一年一年そのものが変わり続け、激しい変革に戸惑うことも多いと思われます。そんな時、本校で培った多文化協働力や探究実践力を存分に発揮し、焦らず、慌てず、挫けずに、地に足の着いた実践を心掛けてください。本校で確実に学びを重ね、成長を遂げた経験者である皆さんは、新しい変動社会が求める人材であり、これからの社会を生き抜く実践者となってくれることと信じています。

今日、最後に皆さんに伝えておきたいことは二つです。一つは、自分が大切にしたい「自分のことば」を持つことについてです。2年次から定期的に発行されてきた学年通信「而今」には、「唯一コントロールできるのは、「今、この瞬間」だけ 過去未来を断ち切り、今に集中する」という解釈があります。つまり、このタイトルには「丁寧な日常」をこの学年の行動指針に据え、その質を高めることが成功への最善策だとする学年部の先生方の考え方、それが反映されているのです。同じ禅の教えに、「即今 当処 自己」ということばがあり、私はこのことばを大切にしています。これをもう少し分かり易くすれば、「いま ここ じぶん」と言い換えることができます。「過去の失敗をいつまでも悔やまず、未来のことをあれこれ思い悩まずに、今この瞬間に集中をして、今の自分に与えられていること、今の自分にできることに全力で取り組む」と理解しています。まさに、「而今」と相通ずる考え方です。当然ですが、これを自分の大切なことばとして意識するようになったのは、私自身がこのようなことに思い悩んだ時期があるからです。今では、このことば「いま」、「ここ」、「じぶん」そのひとつずつが肚に落ちてくる感覚があり、語呂のいいこのことばを呟きながら、自分を鼓舞することもあります。そうすることによって、力の及ばないことに囚われている自分に気付かされ、少し客観的に状況を理解しながら前向きな気持ちを整えることができます。皆さんも、今、大切にしていることば、あるいは、今後大切にしたいと思えることばを見つけ、自分の心の支えにしてもらいたいと思います。

二つ目は、隠岐島前高校の卒業生であること、その誇りをいつまでも持ち続けてほしいということです。全国各地から、この島前地域で学びたいという強い志を持って入学してきた生徒とこの地に息づく伝統・文化のなかで育ってきた生徒が協働し、自分の夢実現に向かって歩んだこの3年間は、皆さんにとってかけがえのないものでしょう。特に、多様性の生まれやすい環境が整っている本校に魅力を感じて入学をしてきた島外生の皆さんは、寮生活の苦楽を共にした仲間のことや常に家族の一員のように関わってくれた島親の方のことをいつまでも忘れることはないでしょう。島内生にとっても、全国から集まる仲間に刺激を受け、新たな人とのつながりがはじまったことを実感する3年間となったはずです。一昨年度発足した家督会青年部は、コロナ禍にあってこの2年間、同窓会を開催することができずにいますが、その中にあってもオープンスクールや夢探究の授業などを中心にスタッフやゲストとして何人かの卒業生が参加をしてくれました。この卒業生のネットワークは、本校の持つ強みであり、今後も在校生と卒業生が関わる機会を数多く作っていきたいと考えています。皆さんには、同窓生や本校卒業生との関りをいつまでも大切にし、母校を誇らしく思う気持ちを持ち続けてほしいと思います。われわれ教職員も、卒業生の皆さんがいつまでも誇れる母校であり続けられるように努力を怠らずに続けていきます。

「つながりのはじまり」このことばは、昨年の東京オリンピック・パラリンピックで公式記録映画の監督を務めた 河瀬 直美 さんが撮影に臨む決意を表したものです。まさに、この島前地域で3年間生活を共にし、校内外において新たな人とのつながりを築いてきた皆さんに当てはまることばだと感じます。この「つながりのはじまり」ということばにあるように、この島前地域を取り巻く海は、隔てるものではなく、つなぐものと考えることができます。日本中どこへ行こうとも、また世界中どこへ行こうとも、この海によって、またかけがえのない思い出によって、皆さん一人ひとりと島前はつながっています。

さて、皆さん、いよいよ本校を巣立つときが来ました。社会は君たちを必要としています。島前高校での学びに誇りを持ち、時には、「真理・理想・進取」この校訓の精神を思い出しつつ、前進を続けてください。皆さんが、本校での、そして島前地域での出会いを「つながりのはじまり」と捉えて、今後、益々飛躍されることを期待しています。

皆さんの前途に幸多からんことを心よりお祈りし、式辞といたします。

令和四年三月一日

島根県立隠岐島前高等学校  校長 井筒 秀明

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