教員・コーディネーター

3月15日(火)コラボレーション授業「国際理解教育(パレスチナ問題)」(地理×JICA)レポート 〜前編〜

隠岐島前高校では2021年度、「教科×○○」をテーマに、「教科」や「学校」という枠を超えたコラボレーション授業に挑戦してきました。その集大成として、年度末に「コラボレーション授業DAY」を実施。今回はそのなかから、学外の方々とコラボレーションした「国際理解教育(パレスチナ問題)」(地理×JICA)の様子をレポートします。

 

平穏? 紛争? イスラエルとパレスチナのリアルを知る 〜導入

「イスラエルって国、聞いたことがある人?」という地理の木村泰之先生の呼びかけに、「はーい」と答える生徒たち。「地理」×「JICA」のコラボレーション授業は、イスラエルの位置を地図帳で確認することから始まりました。テーマは「国際理解教育(パレスチナ問題)」、1年生を対象にした2時間続き(3・4時間目)の授業です。

 

ゲスト講師は、JICAの職員で海士町役場に出向中の久保英士さんと、元JICAで現在は東京在住の内藤徹さん(オンライン参加)。久保さんは過去に2回イスラエルに駐在経験があり、内藤さんもイスラエルの首都エルサレムに住んでいたことがあります。さらに木村先生もイスラエルに行ったことがあるということで、今回のコラボレーション授業が実現しました(詳細は後編で紹介)。

 

まずは、2018年〜2020年にかけて家族でエルサレムに住んでいた内藤さんが、写真を交えながら当時の街の様子について紹介しました。歴史的な古い街並みが残るなか近代的なトラムが走る様子が映し出されると、生徒からは「へ〜!?」と意外そうな反応が。「イスラエルには治安が悪い印象があるかもしれませんが、日常的には落ち着いています」と内藤さん。イスラエルの詳細な地図を示しつつ、イスラエル全土にはユダヤ人を中心に多民族が、その中のパレスチナ自治区(ガザ地区・ヨルダン川西岸地区)にはパレスチナ人(アラブ系民族)が多く暮らしていることにも言及しました。さらに、エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地のため世界中からさまざまな人々がやってくることや、それぞれに宗教的な文化や風習があること、イスラエルには男性3年、女性2年の兵役があることなどが紹介されました。

 

続いて、イスラエル軍の空爆によりガザ地区で死者が出ている状況を伝える、昨年放送のニュース番組の映像を視聴。内藤さんの話とニュース映像を見聞きして疑問に感じたことについて話し合い、生徒からは「内藤さんの話では治安が良さそうだったのに、なんでこんな紛争になるのか?」といった意見が出ました。

 

「パレスチナ問題は複雑でとても難しく、僕自身も完全に理解できていない」と木村先生。そのうえで、「なぜこういう衝突が起きているのかは、歴史的に読み解く必要があります。今日の授業を通して、その要因について真剣に考えてみてほしい」と訴えました。

 

パレスチナ問題とその要因を理解する 〜本編〜

次にバトンは、パレスチナ支援に長く携わってきたJICAの久保さんへ。冒頭では、「パレスチナ問題は人によって捉え方や解釈が異なるし、何千年もの歴史を2時間で語るには限界があります。そして、私自身の解釈が混じっている部分があるかもしれません。これらを念頭に置いて聞いてください」と述べました。

 

ここで、「教室にイスラエルをつくります」と久保さん。イスラエルの領土に見立てて並べ替えた机にはイスラエルとパレスチナの国旗カードが用意され、生徒たちはパレスチナ人役とユダヤ人役に分かれました。

 

続いて久保さんは、第一次世界大戦に遡り、現在イスラエルがある地域の動向について解説。イギリスやフランスといった大国が、ユダヤ人が暮らせる場所をつくる、アラブ人(のちのパレスチナ人)の国家をつくる…とそれぞれに都合の良い約束をして境界線を引いたこと、さらに第二次世界大戦後には、当該地域を「ユダヤ人地域=イスラエル」と「アラブ人地域=パレスチナ」に分割することが国連で可決されたことが紹介されました。

 

現イスラエルの地域が分割されたことを受け、「教室イスラエル」も分割することに。久保さんの指示に従い、生徒たちは自分の机にイスラエルの国旗、パレスチナの国旗のいずれかを表示します。自分はユダヤ人でも机はパレスチナ、自分はパレスチナ人でも机はイスラエル…というように、「住んでいる民族と土地が一致しているわけではないですよね」と久保さん。「どう感じたか?」という問いかけに、生徒は「民族ごとに分かれていないから、いざこざが起きそう」と答えていました。

 

さらに、パレスチナ人の方が多いのに面積は半々であったこと、それに不満をもったアラブ系の国が戦争を起こしたこと、アメリカなどの支援を受けたイスラエルがアラブ軍を撃退してさらに領土を拡大したこと、その結果、多くのパレスチナ人がヨルダン川西岸やガザ地区への避難を余儀なくされたことが解説されました。

 

パレスチナ難民が発生した状況を再現するべく、生徒たちも移動。パレスチナ人役の生徒は狭い地域に押し込まれ…「パレスチナの人々は、納得できませんよね。もとの自分の土地に戻りたい…と訴え、第3次中東戦争が起こりました」と久保さんの解説は続きます。その後、1993年のオスロ会議で暫定自治が認められパレスチナ自治政府が誕生したものの、現在も世界各国にパレスチナ難民が暮らしている現実が紹介されました。

 

双方の視点に立ち、考える 〜まとめ〜

ここで再び、バトンは木村先生へ。パレスチナ人役の生徒にはパレスチナの視点に基づく資料、イスラエル人役の生徒にはイスラエルの視点に基づく資料を配布しました。各自で読んだ後に、同じ資料を読んだ生徒同士がペアになり見解を共有。さらに、異なる資料を読んだペア同士がグループになり意見を交換しました。生徒たちは活発に意見を交わし合い、「地理のレポートでパレスチナ問題を取り上げようとしたものの断念してしまったので、今日、この問題について知れてよかった」といった感想が寄せられました。

 

まとめに代えて、木村先生がイスラエルを訪れた際の様子を写真とともに紹介。不審物を処理するロボットや自治区につながる堅牢なゲートなど、平穏に見える日常生活の中にも緊張感が垣間見える様子を伝えました。

 

最後に、講師を務めた3名がそれぞれ感想を述べました。

 

「生徒の皆さんにとっては、興味が出てきたところで終わり…という授業だったと思うので、ぜひ、木村先生や久保さんに話を聞いたり、パレスチナに関する本を読んだりしてみてください」(内藤さん)

 

「今日は私自身も楽しかったです。パレスチナ問題に限らず、国境って誰がどう決めるんだろう、日本人、〜人ってなんだろう…と、調べたり考えたりしてみてくれるとうれしいです。パレスチナ問題を見ていて一番思うのが、戦争や紛争は、憎しみや悲しみが積もることで時間が経つほど解決が難しくなるということ。ロシアとウクライナの戦争も、取り返しのつかないことにならないよう祈るばかりです」(久保さん)

 

「世界を知るためは、自分や相手のことを知ること、何より相手の視点に立つことが大切です。実際に行かなきゃわからないこともたくさんあるので、ぜひ現地に足を運んで、自分の目で見て語れるようになってほしいと思います」(木村先生)

 

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