教員・コーディネーター

3月15日(火)コラボレーション授業「国際理解教育(パレスチナ問題)」(地理×JICA)レポート 〜後編〜

前編では、2021年度末に実施された「コラボレーション授業DAY」から、「国際理解教育(パレスチナ問題)」(地理×JICA)の様子をレポートしました。後編では、本番に向けていかに授業をつくり上げていったのか、地理・木村泰之先生、JICA・久保英士さん、内藤徹さんに共創の過程を振り返っていただきました。

 

パレスチナ問題を授業で扱うチャンスが到来!

3人で授業をすることが決まったのは、なんと授業本番の1週間前。海士町役場にJICAから出向している久保さんにイスラエル駐在経験があると聞いた木村先生は、「パレスチナ問題を授業で扱うチャンスはここしかない」と、久保さんに会いに行きました。

 

「2020年1月にイスラエルを訪問した際に、エルサレム在住の内藤さんに現地を案内していただきました。自治区や分離壁、パレスチナ人の人権侵害などをリアルに感じ、いつか授業でパレスチナ問題を取り上げたいと考えてきました。このタイミングで取り上げた背景には、ロシア・ウクライナ問題の影響も少なからずありました」(木村先生)

 

久保さんはその場で授業への協力を快諾。木村先生も久保さんも面識があった元JICAの内藤さんにも連絡を取り、3人での授業づくりがスタートしました。

 

授業までの1週間に3回ほど打ち合わせを行い、授業のめあてを決め、枠組みを考えていきました。「パレスチナ問題は非常に複雑で、すべてを網羅しようと思ったら数時間では足りないし、部分的に取り上げても問題の本質は理解できない。イスラエル・パレスチナ両者に歴史があり、論理があり、授業で“正解”は導きようがない」という共通認識のもと、「何をテーマとするかが一番重要な点でした」と木村先生。内藤さんも、「パレスチナ支援においては、被害の大きいパレスチナに同情的で、イスラエルは悪とされがち。そこで思考停止せず、それぞれの立場を理解することを大切にしたいと思っていました」と振り返ります。

 

授業づくりを通して、協働・チームの価値を再確認

準備を進めるうえで課題となったのが、「2時間の授業で、難解なパレスチナ問題をどこまで理解してもらえるか」(内藤さん)。「客観的な情報を提供してなるべく中立的な立場を維持しつつ、わかりやすく伝えることが難しかったです」と久保さん。木村先生は、「島前高校で育みたい資質・能力の一つが、批判的思考力。資料を読み解く力を育みたいと考え、双方の視点に基づく資料を作ろうとしたのですが…資料が少ないうえ、注力すればするほど教員側の見解が入ってしまって…そんな悩みをお二人に相談したところ、いろいろとアドバイスをいただけて助かりました」と振り返ります。

 

授業のアイデアを出し合うなかで、久保さんからは「生徒をパレスチナ人役とユダヤ人役に分けて教室の机を領土に見立て、イスラエル・パレスチナそれぞれの立場について領土の動きや人口比の変遷とともに体感する」という案が、木村先生からは「それぞれの視点に基づく資料を読ませて議論をする」という案が出され、内藤さんは現地で生活をした経験から、平時の安全なエルサレムの様子を紹介することが決まりました。

 

課題や時間的制約があったからこそ、「3人でつくり上げた達成感は大きかった」と木村先生。「一人の力ではここまでできなかった。協働・チームの価値を再確認しました。パレスチナ問題について知らなかったことや新たな見方を学ぶことができ、私自身の勉強にもなりました」と言います。また、内藤さんも「それぞれのメンバーのアイデア、立場、視点を活かし合いながら授業案をつくっていったのはとても楽しかった」と笑顔を見せます。

 

真剣に学ぶ生徒の姿に心動かされる

授業本番では久保さんが考案したワークを実践し、生徒がイスラエル地域の変遷を体感しながら学ぶことができました。また、木村先生考案の資料読解のワークでは、真剣に意見を交わし合う生徒たちの姿が見られました。見学者のなかにも熱心に質問する先生がいるなど、パレスチナ問題について知り、考えるきっかけになったようです。

 

「生徒からは『パレスチナ問題についてさらに調べてみたい』という声が寄せられ、双方の立場を理解することの大切さは伝わったかなと思います。あとは興味・関心をもって自分で学んでいってくれたらうれしいですね」(木村先生)

 

「生徒から『当事者にしか感じえないことだらけで、それは震災や人種差別にも言えること。もっと考えようと思った』『イスラエルとパレスチナ、どちらの視点かによって見え方が全然違った』などの感想をもらい、2時間の授業でこのような考えをもつに至った高校生の鋭さに感銘を受けるとともに、真剣に授業に参加してくれたことが伝わり、うれしかったです」(久保さん)

 

「予想以上に生徒が入り込み、真剣に学んでくれたのが印象的でした。休憩時間にもそれぞれの立場に立って意見を交わし合う姿から、現地の人の気持ちになって問題を見ていることが伝わってきて、ロールプレイを取り入れた授業の効果を実感しました」(内藤さん)

 

現地とオンラインでつなぐ授業に挑戦したい!

最後に、コラボ授業を実践してみての感想と今後の展望について語っていただきました。

 

「コラボ授業の良さは、学校の学びと社会とのつながりを認識できること。つながりが認識できれば、学ぶ意味が理解でき、学びが深まり、実社会への興味・関心や実社会で求められる資質・能力の育成にもつながります。また、学外の方々とのコラボレーションにより、学校という閉ざされた空間の“あたりまえ”を疑い、新たな視点で授業や価値を生み出せる…という予感もしています。今後挑戦したいのは、現地とオンラインでつなぐこと。事前学習で課題や仮説、疑問点を挙げてもらい、授業では実際に現地とつなぎ、検証してみたいです」(木村先生)

 

「授業準備の大変さを痛感しました。いろいろと調べるなかで自分の思い違いに気づいたり発見があったりして、勉強になりました。また、生徒の純粋な反応を肌で感じるライブ感は、仕事でのプレゼンとはまた異なり、非常に面白かったです。イスラエル・パレスチナに限らず、ご要望があれば、途上国のJICA事務所や学校とつないで各地の様子や課題を紹介できればと思います」(久保さん)

 

「事前に課題を出す、導入部分を事前にやるなどができたらなおよかったと思います。今後挑戦したいのは、身近な外国人にインタビューをしたり話をしにきてもらったりする授業。内なる国際化が進むなか、教育的にも社会的にも相互理解が必要だと思うからです。コラボ授業は、ぜひ促進すべきだと思います。それぞれの先生の個性やネットワークを活かさないと機会損失だと思います。先生のモチベーションの面でも、個性を活かした教育機会が大事だと思います」(内藤さん)

 

島前高校では2022年度も引き続き、教科の枠を超えたコラボレーション授業を実践します。JICAとの連携もさらに強化していきますので、どうぞご期待ください。

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