教員・コーディネーター

3月15日(火)コラボレーション授業「金融の歴史とライフプラン」(数学×家庭科×地歴公)レポート 〜前編〜

隠岐島前高校では2021年度、「教科×○○」をテーマに、「教科」や「学校」という枠を超えたコラボレーション授業に挑戦してきました。その集大成として、年度末に「コラボレーション授業DAY」を実施。今回はそのなかから「金融の歴史とライフプラン」(数学×家庭科×地歴公)の様子をレポートします。

 

1億円が手元にあったらどうする? 〜導入〜

「1億円が手元にあったらどうする?」。そんな問いで始まった、「数学」×「家庭科」×「地歴公」のコラボレーション授業。テーマは「金融の歴史とライフプラン」、1年生を対象にした2時間続き(3・4時間目)の授業です。授業の冒頭では家庭科の曽田成先生が教壇に立ち、「それぞれの教科の視点で金融について考え、自分の大切だと思ったことを説明できるようにする」という授業のめあてを生徒と共有。続いて投げかけたのが、「1億円…」の問いでした。

 

曽田先生の「直感で思いついた単語を入力しよう」という呼びかけに応じ、生徒たちは手元のタブレット端末を使って投票ツール「Mentimeter」のフォームに記入していきます。気になる生徒たちの回答は……

 

「貯金する」「買い物」「ちまちま使う」「愛でる」「車買う」「家建てる」「海外旅行」…

 

「夢がありますね! 授業の最後にもう一度同じ質問をしたいと思います。みんなの回答はどう変化するでしょうか」と曽田先生。ここで、今回の授業で扱う「貯蓄」に言及します。

 

「貯金するという回答がありましたが、お金を貯めておくとちょっとだけ増えるって知っていましたか? まずは、お金が増える仕組みについて、学んでいきましょう」

 

金利の変動の背景には何がある? 〜地歴公〜

曽田先生に代わって教壇に立ったのが、地歴公民科の柳原大貴先生。戦後から現在までの金利の推移がわかるグラフを提示し、「金利が一番高かったのは1974年、年利7.5%。一方、現在の年利は0.002%。金利の変動の背景に何があるかを考えていこう」と地歴公パートのテーマを提示しました。

 

まずは、1949年から金利がピークを迎えた1974年を含む1979年までをA、金利が急降下した1980年〜1999年までをB、金利が停滞している2000年以降をCと3つの時期に分け、「それぞれの時期に何があったか」を班ごとに話し合いました。

 

Aについて話し合った班からは、岩戸景気、オイルショックなど、Bについて話し合った班からは、景気後退、バブル崩壊(平成不況)、55年体制の崩壊、阪神淡路大震災など、Cについて話し合った班からは、リーマンショックや愛知万博などが挙げられました。

 

続いて、柳原先生が「金利に影響を与えるもの」について解説しました。

 

「金利に影響を与えるものには、お金の需要と供給、景気、金融政策、物価変動、為替相場などがあります。簡単に言うと、好景気では、金利は高く設定され、不景気になると市場への資金投入のために低く設定されます。後者の例が、アベノミクスですね。では、1973年のオイルショックの翌年に金利が史上最高になったのはなぜでしょうか。オイルショックにより物価が高騰してインフレ状態になると、相対的に貨幣価値が下がります。金利を上げて貨幣の流通量を減少させようとした結果として、1974年に金利がピークを迎えたわけです」

 

最後は、公民パートのまとめとして、「金利にはそのときの社会情勢が大きく影響している。だからこそ、歴史を点ではなく線で学ぶ意識をもとう」とメッセージを送った柳原先生。次への布石として、「そもそも金利とは?」と投げかけます。

 

「金利とは、お金のレンタル料のこと。金利で大事なのが、単利と複利です。『複利は、味方に回すと最強、敵に回すと最悪』。これを頭に入れて、数学のパートに臨んでください」

 

金利が変われば貯金額はどう変わる? 〜数学〜

柳原先生からバトンを受け取ったのは、数学の田中里奈先生。お金の貸し借りの際につく利息・利子の利率が「金利」で、元本に対してのみ金利がかかる方式が「単利」、前年の利息・利子も当年の元本に含んだうえで金利がかかる方式が「複利」であることを解説。単利と複利で受け取り金額にどれだけ差が出るかを実際に計算するワークに取り組みました。

 

◆例:元本100万円を一括で預けます。年利5%ならば、単利と複利で10年間預けると、それぞれの貯金額はいくらになるでしょうか?

 

複利の場合は100万円に1.05を10回かける計算になりますが、1.05の10乗…を計算するのは大変です。そこで田中先生が教示したのが、「高精度、計算サイト、累乗」で検索すること。基数と指数を入れると簡単に計算できる無料サイトがあり、生徒たちはそれを使って数字を出しました。出てきた数字は……

 

単利の場合=100万円+5万円(100万円の5%)×10年分=150万円

複利の場合=100万円×1.05の10乗=約162.9万円

 

複利の方が効率的に増やせそうだということを全体で確認しました。

 

続いて、「ピークだった1974年の金利と2022年現在の金利とを比較する」という本題へ。班ごとに次の問題に取り組みました。

 

◆問題:元本100万円を一括で10年間預ける。年利7.5%と年利0.002%の複利のとき、それぞれの10年後の貯金額はいくらになるか?(金利の変動は無視する)

 

ワイワイ言いながら生徒たちが出した数字は……

 

年利7.5%の場合=100万円×1.075の10乗=約206万円

年利0.002%の場合=100万円×0.00002の10乗=???

 

計算の結果、なんと、年利0.002%の複利のときの利息はわずか200円だと判明しました。

 

「みなさん、これを見て何を感じますか? 1974年は10年間お金を預ければ2倍以上になっていたのに、今はたったプラス200円ですよ。そう、これが令和の現実です!」

 

一方、年利7.5%の複利で預ければ10年間で倍以上になることから、複利のすごさも実感した生徒たち。「利息だったらうれしいですよね。でも、これが利子だったら?」と田中先生は問いかけます。

 

「クレジットカードのリボ払いの金利は、最大20%です。例えば、10万円の買い物をリボ払いにすると、10年後には60万円になります。複利は借金にしてしまうと、どんどん膨れ上がることを含めて覚えておいてほしいと思います。」

 

最後は、一括ではなく積み立て貯金という方法もあり、その考え方については来年の「数学B」の数列(等比数列複利計算)でやると告知し、数学パートは終了しました。

 

そのライフプラン、大丈夫!? 〜家庭科〜

休憩を挟み、家庭科のパートへ。再び曽田先生が登壇し、「生涯賃金・ライフプラン」をテーマに授業が展開されました。「失業や病気など、一生の中で安定して収入を得ることは意外に難しいものです。老後に向けてお金を貯めておく必要もあります」と曽田先生。まずは、班ごとに職業別のライフプランのシミュレーションワークに取り組みました。

 

看護師、小学校教員、SE(システムエンジニア)、管理栄養士、薬剤師、アルバイト、漁師、会社員、警察官、銀行(高卒)の10の職業について、配偶者や子どもの有無、マイホームの有無など条件を考慮しながら、65歳時点での貯蓄予想額を算出。班ごとに発表しました。

 

条件の設定によっては、貯蓄額がマイナスになるケースも。「人生のリスクを回避するための選択肢の一つが資産運用でお金を増やすことであり、その方法を知っておくことが大事」と曽田先生。具体例として貯蓄、投資信託、株式、FXを挙げ、それぞれにリスクとリターンがあることを伝えました。

 

「18歳になったらみなさんも自分で資産運用ができるので、新しく口座を開いて将来の財産づくりをやってみるのもいいかもしれません。お金を増やす方法を知っておくことは大事ですし、若い頃からやっておくと増える額も大きくなりますよ。」

 

将来、お金の面で大切にしたいことは? 〜まとめ〜

公民パートでは過去から現在までの金利の変動やその社会的・歴史的背景について学び、数学パートでは単利と複利について学び、また複利だといかに増えるかを肌で感じ、家庭科パートではライフプランを考えて将来に向けてお金を増やすことの必要性を学んだ生徒たち。最後のまとめパートでは、コーディネーターの新立みずきさんがまとめ役を務めました。

 

まずは、「ここまでで一番衝撃的だったことは?」をJam Boardに記入。さらに、「将来、お金の面で自分が大切にしたいことは?」という問いについて、ワークシートに記入したうえで、グループ内で共有し、メンバーからコメントをもらう…というワークに取り組みました。

 

そしてクラス全体での共有では、「1億円あったら全部使おうと思っていたけど、リスクに備えて貯めようと思った」「自分のお金は、何にどれくらい使うかをあらかじめ考えて分けておくといいなと思った」などの感想が寄せられました。

 

最後に、授業冒頭の「1億円が手元にあったらどうする?」という問いを再掲。生徒たちからは、「貯金」「貯蓄」「貯める」といった回答が多く寄せられました。そして曽田先生が「今日、大切に思ったことを心に留めて1年間を過ごし、18歳を迎えてください。」とメッセージを送り、授業は幕を閉じました。

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