インタビュー特集2026年8月18日 (火)
【教職員インタビュー】「10年前の卒業論文が僕をこの島へ連れてきた」 ――国語×探究で学びを“リアル”に変える、酒井先生の挑戦――
隠岐島前高校には、全国から多様な背景を持つ先生や生徒が集まっています。今回は、2026年度から「教員の島留学」として赴任された酒井先生にお話を伺いました。なぜこの隠岐島前へやってきたのか、その熱い想いに迫ります。
「最先端」ではない、地方の教育の“リアル”を知りたかった
――酒井先生は北海道のご出身ですが、最初の赴任地に福岡県を選ばれたのはなぜですか?
酒井: 元々、北海道を出てみたいという気持ちがありました。また、教育について学ぶなら、知っている土地よりも一歩外に出た方が面白いと思ったんです。候補は千葉と福岡で迷いましたが、福岡は人口が増えていて住みやすさでも評判だったので、憧れがありました。
――あえて遠く離れた場所を選んだのには、教育的な意図もあったのでしょうか。
酒井: はい。関東や大阪の教育は常に最新でアップデートされていますが、そうした情報は本などを通じてすぐに全国に広がります。でも、福岡のような地方でしか行われていない伝統的な教育感や取り組みは、実際に飛び込んで体験してみないと分からないと思ったんです。
10年前の卒論で描いた「憧れの学校」への道
――そこから、どのような経緯で隠岐島前高校へ?
酒井: 実は大学生の時、北海道の小さな町で地域魅力化のボランティアに参加したのがきっかけです。そこで「地域魅力化・学校魅力化」という言葉に出会い、その元祖を調べたら、この隠岐島前高校に辿り着きました。
――大学3年生の時にすでに出会っていたのですね。
酒井: はい。『未来を変えた島の学校――隠岐島前発 ふるさと再興への挑戦
』という本を読んで、「なんて面白い学校なんだ!」と感動しました。あまりに好きすぎて、大学の卒論も勝手に「隠岐島前高校」をテーマに書いたほどです(笑)。いつかここで働きたいという想いはずっと持っていました。
――その後、福岡で中学校の先生を4年間務められた後、この島への挑戦を決められたと。
酒井: 福岡での教員生活の中で、次第に自分の教育感と現場のギャップに悩み、一度は一般職への転職も考えていました。そんな時、たまたまFacebookで「教員の島留学」の募集を見つけたんです。それまで転職活動でワクワクすることはなかったのですが、これを見た瞬間「ここしかない!」とビビッときて、その日のうちに応募しました。
国語の授業を「生もの(リアル)」にする
――実際に島前高校に来てみて、いかがですか?
酒井: 毎日が本当に充実していて楽しいです。ここは教育の最先端を走っている学校だという誇りを持って教壇に立っています。
――酒井先生は「国語」の授業を担当されていますが、どのような工夫をされていますか?
酒井: 教科書の内容を教えるだけでなく、「生もの」、つまりリアルな学びを授業に持ち込みたいと考えています。 最近では、男性の育児休業取得率を扱った教材を使い、実際に島根県と全国のデータを比較する授業を行いました。生徒たちには「自分たちが行政の立場ならどんな施策を打つか」を考え、レポートやポスターを作成してもらったんです。
――それは非常に実践的な学びですね!
酒井: さらにリアルを追求するために、町役場(教育委員会)の方や、地元のホテルの支配人の方に教室に来ていただきました。教員である僕がフィードバックするよりも、社会の第一線で働くプロの視点で意見をもらう方が、生徒たちにも深く響きますから。
先生がワクワクすれば、生徒も主体的になる
――そうした「探究」の要素を取り入れた授業の原点はどこにあるのでしょうか。
酒井: 「先生と生徒の関係は相似形である」という考えが根底にあります。先生が主体的に学ぼうとすれば、生徒も自ずと主体的になる。僕自身が大学生時代にまちづくり活動に飛び込んでワクワクした経験が、今の教育観に繋がっています。
――最後に、これから「教員の島留学」を検討している方へメッセージをお願いします。
酒井: 以前、研修で「1/100 × 1/100 × 1/100 の存在になれ」という言葉を頂きました。何か一つの分野だけでなく、異なる経験を掛け合わせることで、唯一無二の魅力が生まれます。 島前高校に来ることは、その大きな一歩になります。本で読む知識よりも、ここに来て得られる経験の方が圧倒的に大きいです。自分の心をくすぐるものがあるなら、ぜひこの環境に飛び込んできてほしいですね。
(取材・文:隠岐島前高校事務 三坂綾美 2026年8月)
