校長室より

令和7年度入学式式辞

暖かな春の日が続き、高校に上がる坂道の桜も色濃く咲き誇り、海や山のあおさもますます深く、心浮き立つ春本番の訪れを感じます。

本日このよき日に、多数のご来賓の皆様のご臨席を賜り、令和7年度島根県立隠岐島前高等学校の入学式を挙行できますことは、本校にとって大きな喜びであります。高い所からではありますが、ご臨席いただきました皆様に、心からお礼申し上げます。

 

保護者の皆様、本日はお子様のご入学、誠におめでとうございます。併せて本校での学びに信頼と期待をもってお子様をお預けいただきますことに深く感謝いたします。今や島前地域内のみならず、県外からも多くの生徒が集う本校は、実に多様性に満ちています。

高校三年間は、人生の方向性はもちろん、これからの世の中を生き抜いていく上での社会人力を身につける大切な時期です。お子様が本校の多様性の中で過ごすことは、これから先の人生に大きな影響を与えることは間違いありません。また、それが故に心の葛藤や、悩み・苦しみの多い時期でもあります。遠く離れた地で生活をすることになるお子様も多くいらっしゃいますが、近くにいても、離れていても互いに安心できる親子関係づくりに努めていただきたく思います。私たち教職員は、お子様自身がここでの生活に自らの存在意義を自覚し、生きる道を切り開いていけるよう、全力で支援してまいります。保護者の皆様におかれましても、本校の教育活動へのご理解とご協力を賜りますようお願いいたします。

 

さて、只今入学を許可しました50名の新入生の皆さん、入学おめでとう。本校は、隠岐島前3町村の熱意のもとで昭和30年に開校、昭和33年に「全国初の全日制分校」となった歴史を持ち、今年度創立70周年を迎えます。途中、学校存続の危機に直面した時期もありましたが、島前3町村の地域の皆様方のご協力とご支援もあり、現在では、全国から注目される学校に成長することができました。

 

しかしその一方で、地域の過疎化や少子高齢化に伴う様々な課題に歯止めがかかったとはいえません。本校も常に地域の一員として前進し続けて行く必要があります。

令和4年度に新設した「地域共創科」という学科は、この3月に1期生として初の卒業生を送り出しました。本日ここに志を持って本校の門をたたいてくれた新入生の皆さんには、校訓の『真理・理想・進取』つまり「真理に根ざし、理想を掲げ、新しいことに自ら進んで挑戦する」ということを胸に、在校生、教職員、保護者の方、そして地域の皆さんととともに力を合わせて、70年の伝統を受け継ぎ、新たな歴史を刻んでくれることを期待しています。

 

本校では、「失敗を共に称え合う学校」というスローガンを令和4年度から掲げています。「踏み込み」という名の挑戦を大切にしています。挑戦があれば、ときには「失敗」することもあります。「失敗」体験を「失敗」のままほっておくのではなく、なぜ失敗したのか、何が足りなかったのかなどをしっかり考える「振り返り」も大事にしています。「ふみこみの島前」「ふりかえりの島前」このサイクルを繰り返し、生徒の皆さんだけでなく、教職員も一緒に、決して失敗を恐れることなく、失敗さえも前向きにとらえ、その解決に向けて協力し合い、新たな「ふみこみ」に向かって一歩踏み出せる力強さを獲得する、学校全体でそんなチームになっていきたいと考えています。

 

結びに新入生の皆さんに1つ送りたい言葉があります。

「汝、何の為に其処(そこ)に在りや」

もともとはアメリカのハーバード大学のジョンソン教授の言葉ですが、昭和四十年頃に秋田県にある県立秋田高校で当時の校長の鈴木健次郎先生が繰り返し生徒に伝えておられた言葉です。

「あなたは、なんのためにここにいますか?」「なぜここにいるのですか?」。

この「問い」を常に自分自身に投げかけ、また、いつ、だれに聞かれても自分の過ごすこの場所で自らの存在意義を即座に断言できる、そういう自覚と誇りをもって3年間を過ごしてほしいと願っています。

存在意義などというと少し難しいように思うかもしれませんが、今日の日をどんな気持ちで迎えたか、このこれから始まる新しい生活への期待や目標を思い描き、「何がしたくてここにいるのか」「今為すべきことは何なのか」自分に向き合い、友達や周りの大人と向き合い、自分自身への「問い」に対する答えを探してください。

小さなことでもかまいません。一つでなくてもかまいません。「ここでしかできないこと」「自分にしかできないこと」それをみつけたときにおのずとこの「問い」への答えが出ているはずです。

皆さんはこの春に自らの人生の大きな決断をしてここへ来ました。この隠岐島前高校での3年間で様々な「踏み込み」に臆することなく、多くの人たちとの出会いの中で時にはぶつかり合い、しっかり「振り返り」をして、失敗があれば互いに称え合いながら、「汝、なんのためにそこにありや」この問いに、つねに答えられる自分であり続けてください。決して一人ではありません。周りをみてください。新しい友人、仲間、先生、たくさんの大人たちがいます。

新入生の皆さんのこれからの3年間が、忘れられない宝物となるような高校生活となることを祈念して、入学式の式辞といたします。

 

令和七年四月十日

島根県立隠岐島前高等学校

校長 伊藤尚子

 

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