教員・コーディネーター

【イベントレポート】失敗しよう、踏み込もう! オンラインにて「失敗フォーラム」を開催!

「失敗を共に称え合う学校」を学校経営スローガンに掲げる隠岐島前高校では、フィンランド発祥の「失敗の日」を学校行事に組み込み、生徒や教員が互いの失敗や踏み込みを称え合ってきました。今回、より多くの人とその価値を共有したいと考え、3月16日(土)に、初となる「失敗フォーラム」をオンラインで開催しました。その様子をお伝えします。

 

→隠岐島前高校の「失敗の日」の紹介動画はこちら

 

隠岐島前高校の「踏み込みプロジェクト」とは?

フォーラムの冒頭では、隠岐島前高校(以下、島前高校)の「踏み込みプロジェクト」所属のコーディネーター・宮野が、「踏み込み」という表現について言及。「挑戦」よりも身軽に、より失敗を恐れることなく一歩を踏み出す。そんなニュアンスで、島前高校では「踏み込み」という言葉を使っていることを紹介し、「島前高校では、失敗や踏み込みを称え合い、次の踏み込みにつなげてきた。今日は、みんなでいろんな踏み込みを分かち合いながら、失敗の価値について一緒に考えていきたい」と挨拶をしました。

 

今回のフォーラムの問いは、「失敗は、ウェルビーイングにつながるのか?」。最初に、島前高校の飯野卓先生が、同校の「踏み込みプロジェクト」の取り組みについて紹介しました。

 

◆踏み込みプロジェクト:教職員と生徒がさまざまな挑戦を共創し、失敗を称え合うプロジェクト

・踏み込みカード:https://www.dozen.ed.jp/teachers/7925/

・失敗ラジオ:https://www.dozen.ed.jp/teachers/11008/

・失敗共創インタビュー:https://www.dozen.ed.jp/interview/6130/

・失敗の日:https://www.youtube.com/watch?v=880EKK8jFgY

さらに飯野先生は、「踏み込みプロジェクト」に取り組んだ結果、生徒を対象にしたアンケートで、踏み込みに関する自己認識がプラスになったことを紹介。「質の高い踏み込みとは、自分の性格を変える、成長につながる、未来を変える、夢につながる……そんな、知らない自分を知ることにつながる踏み込み、周囲とつながり周囲にプラスの影響を与える踏み込みではないか」と締めくくりました。

 

踏み込み事例① 宮田裕一さんの「神楽が好きな男の奇跡と失敗の話」

続いて、ゲスト2名による踏み込み事例発表へ。最初の登壇者は、島前高校をこの春卒業した宮田裕一さん。島根県浜田市出身の島留学生です。地元で舞っていた「石見神楽」の経験を活かし、高校時代はレスリング部に所属しながら、海士町に伝わる「島前神楽」を学びました。そんな宮田さんが、「神楽が好きな男の奇跡と失敗の話」と題して、自身の踏み込み体験を語りました。

 

【宮田さんの踏み込み体験】

◆踏み込み①:神楽の魅力を知ってほしいと、高校2年次の「失敗の日」に生徒や教員の前で計画を発表する。

◆踏み込み②:学校の文化祭で石見神楽を披露してもらおう→先生に相談。

◆失敗①:費用面などで却下される→「悔しい、もう1回やろう!」

◆踏み込み③:個人で石見神楽と島前神楽の公演会を開こう→場所は高校の体育館を確保。資金は海士町の補助金を確保。島前神楽は地元の同好会の協力をゲット。石見神楽は高校の神楽同好会の協力をゲット。宿泊先はなかむら旅館を確保!→「やった、もう少し!」

◆失敗②:しかし、神楽同好会のスケジュールが合わず、公演を断念……→「もうダメだ、終わった……」→なかむら旅館に予約のキャンセルに行く→奇跡が起こる!

◆奇跡①:なかむら旅館らが企画する音楽フェス「AMAFES(アマフェス)」で「神楽をやればいいんじゃない!?」と館主・中村さんと意気投合→「神楽の公演ができる!」

◆奇跡②:でも、資金がない……→AMAFESの予算から出してもらう→「ありがたい!」→石見神楽の団体もなかむら旅館の伝手で確保。場所(隠岐神社)・宿泊先(なかむら旅館)も確保!

◆成功:AMAFESにて島前神楽と石見神楽を披露。自身も島前神楽を舞う。

 

「ある大人に、『神楽を好きな気持ちを言葉にして発信したら、実現できるんじゃないか。前に進めるんじゃないか』と背中を押されて、みんなの前で計画を宣言したのが2年前の失敗の日。そこから神楽を公演できるまでに、たくさんの失敗がありました。自分がここまで来れたのは、神楽が好き、神楽の魅力を伝えたいという強い思いがあったから。何度も失敗したけど、その思いが原動力になって、立ち上がることができました。今、踏み込めていない人も、『好き』という思いを力にしたら、踏み込めるようになるんじゃないかと思います」(宮田さん)

 

踏み込み事例② 税所篤快さんの踏み込みスパイラル

続いての登壇者は、国際教育支援NPO e-Education創業者で現在はドイツでシュタイナー教育について研究する税所篤快さん。「今も踏み込みと失敗の日々」という税所さんが、バングラディシュで映像授業による大学受験予備校を立ち上げた際の自身の踏み込み体験を語りました。

 

【税所さんの踏み込み体験】

◆踏み込み①:失恋をきっかけに、男を磨きに尊敬する人のもとへ行こうと決意(当時19歳)。『グラミン銀行を知っていますか』の著者で、当時・秋田大学の教員だった坪井ひろみ先生に会いに、思い立ったその日に夜行バスで秋田へ。

◆踏み込み②:グラミン銀行の創始者であるユヌス博士に会いに、バングラディシュへ。インターンの学生として働き始める→バングラディシュの学校を訪れ、圧倒的な教員不足の実態に直面する→落ちこぼれだった高校時代に自分を救ってくれた大学受験予備校の映像授業を思い出す→「これだ!」

◆踏み込み③:仲間と共に、バングラディシュの田舎の村で、映像授業による大学受験予備校を創設→現地のカリスマ講師に出演依頼。DVDで映像授業を流す環境を整備→名門・ダッカ大学への合格者輩出を目指す!

◆失敗:資金不足、停電、天候不順、社会情勢が悪化、自身の体調不良、生徒の不登校……などなど、数々の失敗を経験→仲間と協力してなんとか乗り越える。

◆成功:ダッカ大学をはじめ大学合格者が続出。生徒数が増え、プロジェクトが現地の英語の教科書などでも紹介される。

◆踏み込み④:「五大陸ドラゴン桜」を目指し、世界各国で映像授業プロジェクトを展開。

◆失敗:ソマリランドで副大統領とメディアに出たところ、反対派から暗殺予告を受ける。

◆踏み込み⑤:その後も踏み込みを続け、現在はドイツの大学で研究を行い、難民・移民の学習環境をいかに整えるかに踏み込もうと計画中(e-Educationの活動は、パレスチナやルワンダなど紛争地域も含めて各国で仲間が継続中)。

 

「自分の中で一番印象に残っている踏み込みは、やっぱり坪井先生に会いに秋田に行ったときですね。扉をノックしたら開けてくれる人がいる、一歩踏み込んだらちゃんと迎え入れてくれる人がいると教えてくれたのが坪井先生でした。坪井先生との出会いが温かい原体験としてあるから、その後もずっと、スパイラル的に踏み込みができたんだと思います。今も当時と同じ原理で、面白い本を読んだらその著者に会いに行く、というのを実践しています。先日もパリまで会いに行きました。話が盛り上がらなかったらどうしようという不安もあり、実際に話題が尽きる局面もあったんですが、まあそれもいいかと。失敗への不安は僕にもあります。でも、うまくいかなくても失敗しても、まあそれもいいじゃんと、僕はいつもそうとらえています」(税所さん)

 

パネル対談:水谷智之さん×熊平美香さん

続いて、登壇者2名の“失敗”を受け、島前高校の学校経営補佐官を務める水谷智之さんと、島前高校でリフレクションや対話のアドバイザーを務める熊平美香さんが、パネル対談を行いました。それぞれの話の内容を抜粋して紹介します。

 

水谷:宮田さんは、「島前神楽と石見神楽を一緒にやる」という難易度の高い計画を立てた、つまり、高い旗を揚げたことで、より強い踏み込みが必要になったのだと思います。そして、強く踏み込んだ先に失敗を経験したことで、その悔しさや絶望が、「実現したい」という思いを増幅した。この増幅した思いの湯気をなかむら旅館の館主が感じ取って、なんとかしてやりたいと心が動き、彼を支えた。リーダーシップや協働って、本来こうして生まれるんだろうと思いました。

 

一方、税所さんは、キャリアの設計図を持たずに踏み込んだところが、すごいですよね。プランを描き、そこから逆算して努力するのがよしとされる風潮がありますが、そうじゃないあり方だっていいと私は思うんです。プランはないけど、踏み込んだ先で道を作る。そこでしか見えない景色を見て、また次に踏み込む。自分の心に正直に歩んできているという点で、これってまさにウェルビーイングだなと思いました。

 

熊平:人はなぜ踏み込むか、それは「〜したい」というWANTがあるからです。そのWANTを言葉にする機会があり、その言葉に心を動かされた周りの人が助けてくれて、さまざまな失敗を乗り越えて成功する。この成功体験があると、踏み込みが病みつきになるんですよね。踏み込んでみてどうだったか、どうしたら次はもっと良くなるかというリフレクションを行うことで、何かしらの成功やプラスの経験に辿り着けるはず。人の踏み込み体験を聞いて「自分にはできない」と思うかもしれないけれど、そこで躊躇するのではなく、自分の心地よさを大事にしたら、良い踏み込みができるのではないかと思いました。

 

水谷:本来は失敗こそがエネルギー増幅の種であり、踏み込むこと自体に価値があります。一方、「失敗=良くないもの、恐怖を及ぼすもの」と感じていれば、自分にできそうなことしかやらなくなってしまいます。高い旗を揚げなくなるわけです。だからこそ、踏み込むことを、失敗を、讃え合う土壌がとても大事なんです。

 

熊平:誰も想定ができず答えをもたない世の中では、私たちはチャレンジし続けなくてはなりません。失敗して終わりではなく、踏み込みを、失敗を、次の行動に活かしていく。うまくいかなくて当然で、失敗から学んで次はどうするかを考える。この踏み込みとリフレクションが生活の一部になっていく必要があると感じます。そのためにも、「あ、ダメだったね。じゃあ次どうする?」と失敗を軽やかに受け止める空気も大事だと思います。

 

グループ対話:「失敗は、ウェルビーイングにつながるのか?」

その後は、グループ対話の時間。数名ずつブレイクアウトルームに分かれて、「踏み込み」について対話を行いました。

 

失敗は、ウェルビーイングにつながるのか?

踏み込みが増える社会になるためにできることは?

踏み込めない生徒にどう声をかける?

 

といった問いに対して聞こえてきたのは、

 

「踏み込まない・踏み込めない状態だと、自分らしさが制限されて、ウェルビーイングの観点ではいい状態とは言えない」

「失敗を恐れるのは、失敗することで周りにどう思われるかなど、人との関係性の変化を恐れているからではないか」

「話を聞いてもらい、励まされ、やったことを認めてもらうことで、安心感につながる(安心して踏み込めるようになる)」

「信頼してもらうことが、踏み込む勇気になると思う。だから、仲間って大事」

「他者との関係性を築くことが大事。それがないなか一人で突き進んだら、失敗したときに恐怖しかなく、幸福感はない。踏み込みがウェルビーイングにつながらない」

「石橋を叩いても渡りたがらない生徒がいるのは、渡らせていない大人の影響もあると思う」

 

といった声。「思い切って踏み込める環境=失敗をよしとする空気=周囲の人との関係性」が踏み込みのカギになるのではないか…ということが、こうした声からもわかります。

 

最後は、宮野が「踏み込みは一人でやることじゃなくて、周囲の人の支えや応援があるからこそできるものなんだ、という気づきが改めて得られた。今後も踏み込んでいきたい」と挨拶。第1回のオンライン「失敗フォーラム」は「失敗って悪くない、かも…」「踏み込みには応援が大事!」という前向きな余韻を残して終了しました。画面越しに手を振る参加者の皆さんの表情も、心なしか最初よりも明るくなったように感じられました。ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!

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