インタビュー特集

こうして私たちは我が子を送り出すことを決めました(保護者インタビュー)

地元・親元を離れ、離島で高校生活を送る隠岐島前高校の島留学生たち。
親は我が子の進路選択をどう考え、何を思いながら送り出したのでしょうか。

1年生の保護者である松本綾子さん、横田陽子さん、吉田雄一郎さんに、進路選択の経緯から現在の思いまで、本音で語っていただきました。

—まずは、隠岐島前高校との出会いや興味を持たれたきっかけについてお聞かせください。

松本さん:
中学校で「地域みらい留学」のチラシが配られ、地方の公立高校に進学するという選択肢があることを初めて知りました。(現在、島前高校に通う)娘は4人兄弟の3番目で、上の子たちは都立高校に進学しました。子どもたちの進路選びの様子を見ていて、親として、もっといろんな選択肢があった方がいいなという思いがあって。娘に声をかけてみたところ興味があるようだったので、まずは情報収集をしようと思い、地域みらい留学の説明会に参加しました。娘は予定があったため私しか行けなかったのですが、プレゼンテーションを聞いて気になった学校を3、4校選んで、後日、娘にパンフレットを見せながら説明しました。そのなかでも娘は島前高校に惹かれたようで、実際に見てみようと秋のオープンスクールに親子で参加しました。

「メリットもデメリットもあることを確認・了承したうえで、最終的には本人が決めました」と松本さん

横田さん:
(現在、島前高校に通う)娘は3人兄弟の末っ子なのですが、長女が高校受験をした7年ほど前に、夫がどこからか島前高校の情報を仕入れてきたんです。こんな学校があるみたいだよと長女に話をしたのですが、長女はやりたいことが明確で、すでに志望校がほぼ決まっていたこともあり、選びませんでした。また、次の長男もやりたいことがはっきりしていて、自分で決めた道へと進みました。一方、島前高校についていろいろと調べていくうちに、私たち夫婦は学校の取り組みや島全体で子どもを見守り育てるというスタンスに惹かれていき、子どもを行かせたいなという気持ちになっていきました。そんな思いがあって、末の娘には中学に入ってすぐの頃から折に触れて島前高校の話をして、その気にさせようと…(笑)。娘も満更でもなかったようで、中2の夏くらいからは、親子で説明会に行ったりオープンスクールに参加したりするようになりました。

吉田さん:
私の場合は、島前高校のある海士町のことを知ったのが最初です。仕事で地域おこしなどに携わっていた時期があり、地方創生の成功事例として耳に入ってきました。当時は子どもがまだ小学生だったので高校の教育についてはあまり興味がなかったのですが、息子が中学生になり進路を考えるようになった際に、いろいろと調べていたら島前高校がヒットしたんです。どこかで聞いたことのある名前だなと思ったら海士町にあるということで、私の中でピタリとつながりました。当時、都立高校についていろいろと調べたり見学に行ったりしていたのですが、ここに我が子を通わせたいと思える学校がなくて。どこの大学に行くかということを重視している学校が多く、なんとなく息苦しいというか、閉塞感があるように感じてしまったんです。それは息子も同じようでした。インターネットで「変わった高校」、「魅力的な高校」などというキーワードで検索を重ね、島前高校に行き着きました。息子にこんな離島の学校があるよと話したところ、「コンビニないって、マジで!?」みたいな反応でしたが(笑)、東京で開催された地域みらい留学の説明会に参加して話を聞いたら、「ここにする」と。他の学校も見て回りましたが、親子共々「ここだ」と思いましたね。中3の6月のことです。

—最終的に受験を決めたのは、どのような理由からですか?

松本さん:
実際に島や学校を訪れてみて、私も娘も改めていいなと感じ、メリットもデメリットもあることを確認・了承したうえで、最終的には本人が決めました。中3の12月頃でした。受験勉強に関しては、それまでは(地元の公立校でも島前高校でも)どちらでも受験できるよう準備をしていました。

横田さん:
中2、中3とオープンスクールには2回参加したのですが、そこで出会った先生やスタッフの方々が、これまで出会ってきた先生たちとは全然違っていたんです。娘は幼い頃から独特の世界観を持った子で、先生からすると、いわゆる「扱いづらい子」だったと思います。先生たちは、言葉では「生徒の個性を大事にする」と言っていても、本当に娘の個性を認め、尊重してくれる先生がどれだけいるんだろうと疑問に思うところがありました。ですから、1回目のオープンスクールの体験授業で娘が発言をした際に、島前高校の先生やスタッフの方が「いいね」、「すごいね」と褒めてくれたときは、親としてすごくうれしかったんです。娘もとても良い表情をしていて、こういうところでのびのびと学校生活を送るのは、娘に合っているんじゃないか、やりたいことも自ずと見つかるんじゃないかと思えました。ただ、娘は島前高校には惹かれているものの親元を離れることが嫌だったようで、直前まで悩んでいました。

「失敗したとしてもそれがいい経験になる」と横田さん

吉田さん:
説明会に参加した後に、息子がヒトツナギのツアー(島前高生が主催する中学生向けの島ツアー)に参加したんです。それがものすごく楽しかったみたいで、目を輝かせて帰ってきました。息子はその時点で島前高校に行く気満々でしたが、その後、夏のオープンスクールに親子で参加して、私も改めてここがいいと確信しました。印象的だったのが、隠岐國学習センター長の豊田さんから保護者に向けた「学びの責任は誰にあるか?」という問いかけです。普段から生徒に向けてもこういう問いを発しているんだろうなと想像ができ、我が子にはそういう本質的なことを考える機会のある環境に身を置いてほしいなと思いました。

—お子さんを離島に送り出されることについて、不安はありませんでしたか?

松本さん:
娘は大家族の中で揉まれて育ってきましたし、本人が望んで行くと決めた学校なので、とくに心配はしていませんでした。本人もナーバスになったりはしていませんでしたね。

横田さん:
うちは親元を離れたくないと最後まで進学を悩んでいたこともあって心配はしましたが、芯は強い子なので大丈夫だろうと思っていました。私としては、人生においてマイナスになる経験は何もない、失敗してもそれがいい経験になる、という考えなので、楽観的に考えていましたね。仮にどうしてもダメで自宅に帰らざるを得なくなっても、それもその子にしかできない経験だし、そのときそのときで判断していけばいいと思っていました。実際、入学式の翌日に大泣きしながら電話をしてきたときは心が乱れましたが、それも含めて成長には必要なことだったと思います。

吉田さん:
妻は生活面のことを心配していましたが、私自身は、本人は大変だろうけど、送り出せてよかったと感じていました。生活面もそうですが、このまま東京にいたら、高校時代を狭い世界で過ごしてしまいかねないと思ったんです。東京って、広いようだけど実は狭い。私も東京で高校生活を送りましたが、いろんな大人や自分とは価値観の異なる人たちと触れあうチャンスはほとんどありませんでした。この先の時代を考えると、これはかなりマズイ状態だなと思ったんです。

「本質的なことを考える機会のある環境に身を置いてほしかった」と吉田さん

—入学後のお子さんの様子はいかがですか?

松本さん:
あまり連絡はなくたまに写真を送ってくる程度ですが、楽しくやっているようです。ソフトテニス部に入って、真っ黒に日焼けして、筋肉もついて(笑)。ビーチで見た満点の星空がすごかったとか、夕焼けがめちゃくちゃキレイだったとか聞くと、自然の豊かな環境に身を置けることを私自身もうらやましく思います。

横田さん:
入学して半年あまりですが、すごく成長したなと感じます。以前は何を聞いても反応が薄く、自分の意見があってもそれを表に出さない子でしたが、最近は少しずつ、自分の考えを自分の言葉で表現できるようになってきました。今は、海外留学がしたいみたいで。以前は「留学には絶対に行かない」と頑なに拒んでいましたが、親元から離れた寮生活で自分を見つめ直す時間がとれたのかなと思います。

吉田さん:
うちも楽しくやっているみたいです。規則正しい生活のおかげか、入学して半年で10キロ痩せたとか(笑)。ヒトツナギ部に入って、今年は中学生を迎える側として頑張っています。文化祭・体育祭の見学に行ったらすごくクオリティが高くて、部活も忙しくて、これは大変だろうけど楽しいんだろうなと。この調子で彼らしく高校生活を楽しんでほしいです。

—では最後に、改めて、島前高校の魅力とは何だとお感じでしょうか?

松本さん:
ひと言で表すのは難しいですが…地域とのかかわりが密だということ。高校生のパワーが地域で求められていて、高校生自身にもそれを発揮したいという思いがあって、自分も地域の一員として生活しているんだという実感が強くあると思うんです。大人が自分のことを地域の一員として認め、真剣にかかわってくれることで、自分が誰か、何かの役に立っていると思える。いろんな大人が自分のことを応援してくれていると実感できる。そんな環境で学べることが、何よりの魅力だと感じます。あとは、自然の豊かさですね。雄大な自然の中に身を置くだけで、感じること、考えることはまったく変わってくると思います。

横田さん:
地域の方々も含めて、高校生の周りにたくさんの素敵な大人がいること。保護者として何度か島に足を運ぶなかで、次第に島の人たちが心を開いてくれるようになりました。笑顔で家族のように迎えてくださる温かさを肌で感じ、地域の方々に見守られながら高校生活を送るっていいなと思いました。

吉田さん:
息子にとって、「楽しい」を自分で見つけ、広げられる場所だということ。息子に最近どうだと聞くと、とにかく「楽しい」と返ってくるんです。自宅にいたときは時間さえあればスマホを見ているような感じだったのが、島では休みのたびに友だちとサザエを採りにいったり星空の下でキャンプをしたり、アクティブに、主体的に、楽しいを自分で見つけられるようになった。そんな息子の姿を見ていると、島前高校に送り出して本当によかったと思います。

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