校長室より

「それぞれの目標へ、ひたむきに」(第2学期始業式式辞)

2学期の始業式をむかえました。島前地域では、50年に一度と言われる記録的な大雨が短期間に二度もあり、また、全国的にも異常気象が常態化してきたという感を強くしたこの夏休みの期間中、大きな事故等の報告もなく、生徒の皆さんが元気な姿でこの日をむかえられたことを喜びたいと思います。帰省をした寮生も、コロナ禍にあり制限の掛かる中でしたが、家族との大切な時間を過ごせたことと思います。この期間中、様々な校外活動に多くの生徒が参加しました。グローバル探究は対象をブータンとミクロネシアの2か国とし、それぞれ4名の生徒がプログラムを進めてきましたが、7月下旬と8月上旬にはフィールドツアーを実施しました。ブータンについては「芸術文化」、ミクロネシアについては「地域医療」を研究テーマに据え、県内の他の市町を訪ねて実践事例を見聞きし、地域の伝統文化や暮らしを継承する方々の想いに触れる機会から得られたものは大きかったことでしょう。また、この間、島前地域の「ローカル探究」も企画され、11名の生徒が町内の事業所で就業体験を行いました。最後には、仕事のことや生活のことなどについて、一か月近くにおよぶ充実した日々の実践を参加者一人一人が発表しました。

コロナ禍にあり開催の意義が問われた東京五輪は一週間前に17日間の日程を終え、閉会しました。今回の五輪で特に印象に残ったのは、陸上中長距離の活躍です。アフリカ勢が強いこの種目で、今回初めて日本から女子1500mにエントリーされた田中希実選手は、それだけでも価値のあることですが、この大会では走るたびに日本記録を更新して予選、そして準決勝を突破し、決勝では日本勢初となる8位入賞を果たしました。男子3000m障害には本県浜田市出身の三浦龍司選手が出場し、予選で自身の日本記録を6秒も更新して決勝に進出して日本勢初となる7位入賞を果たしました。また、女子5000mと10000mに出場した広中璃梨佳選手は、5000mで16年ぶりに日本記録を更新し9位、10000mでは7位に入賞しました。これまでの日本人選手は、序盤先頭集団に位置しても、レース中盤以降徐々に集団から置いていかれるというレース展開がほとんどでしたが、この三選手は、序盤から自分のペースで先頭に立ち、中盤でレースの状況を見極め、終盤でトップ選手に食らいつく勝負ができるという点で、これまでの選手とは次元の違う逞しさを感じました。歴史的な快挙と周りが騒ぎ立てても、レース後のインタビューから受ける三選手の印象は共通していて、目標を定め、確実に結果を積み上げてきたことに対する自信と過去に達成した人がいるとかいないとか、そういうことにとらわれない真っすぐな姿勢です。そんなひたむきさはどこからくるのか、考えるに、東京五輪が大きな目標ではあっても、その先にまた次の目標を既にイメージできているからこその真っすぐさであると受け止めました。そして、五輪での入賞とか何十年ぶりの日本記録とか、そんな偉大な結果も日々の一つ一つの積み重ねがあってこそのものであることを三選手の生の言葉から感じ取ることができました。アスリートにとって五輪が一つの目標であるように、人生の目標は我々一人一人が自分に課すものであり、その価値はそれぞれにとって最高のものです。周囲が困難と思っている壁を自分自身では限界ととらえない二十歳前後の三選手の活躍は、同世代の君たちにも大きな刺激になるはずです。
さて、2学期です。1学期の終業式でも触れましたが、今年度、全体として落ち着いて授業に臨むことができています。今学期、さらに君たちに期待することは、明確な課題意識を持った、より積極的な授業への取り組みです。一つ一つの授業には必ず「ねらい」があり、教員は少なくとも1時間の授業の中で確実に押さえておきたいポイントを決めて授業に臨みます。1時間の授業の中で計画通りにできたこと、思うように進められなかったことを振り返り、次の授業に活かしていきます。授業の主体である君たちには、その時間の「めあて」をしっかりと意識に置いて授業に臨み、各自の課題を少しずつでも着実に克服していってもらいたい。そして、一緒に学ぶ仲間に貢献する責任を意識し、また、その仲間の援助に誠実に応える責任を自覚して授業に臨んでもらいたい。そういう取り組みができるなら、社会で通用する確かな力を在学中に身に付けることも可能になってきます。目標の設定、そこから明確になる課題の自覚と実践、そして振り返り、この島前高校の学びの基本であるサイクルを2学期はどんどん回していってほしいと期待します。自分が本気になりさえすれば、支援してくれる人たちが周りにたくさんいることにも気づくはずです。

話は変わりますが、君たちに一つ報告をしておきます。既に、島根県教育委員会が公表して報道もされていますし、保護者の方には5月のPTA総会でもお知らせしていることですが、来年度、本校には新学科が設置されます。正式には、9月1日に県教委から発表になりますが、新しい学科は、地域社会の問題解決のために必要な学習を提供する学科で、つまり、これまで本校が力を入れて取り組んできた学びを国の新たな制度の中でさらに充実させていくためのものです。対象は令和4年度入学生からとなるので、現在の在校生の学習内容に変更はありません。また、新学科が設置されてもこれまでの普通科は継続していきます。今後、マスコミ等で報道される機会もあると思いますが、君たちは今自分のやるべきことに集中して取り組んでください。なお、この件に関して、気がかりなことがあれば教職員に相談してください。

最後に、新型コロナウイルス感染症について触れておきます。周知のとおり、全国的な感染者の増加は深刻な状況にあります。その要因は、変異ウイルス(デルタ株)の感染力の高さに加え、人流がなかなか減らないことにみられるような人々の意識にもあると言われます。これまでも本校の置かれている特別な状況から、特に、長期休業明けの2週間を要警戒期間と位置付け、感染防止に関わる基本の徹底を呼び掛けてきました。この2学期当初、感染防止に対する高い意識と自覚ある行動が一人一人に求められることを十分に理解し、実践してください。2週間後には碧燎祭を控えています。保護者の方には大変申し訳ないですが、県内も含め全国的な感染拡大の現状から、今年の学園祭は生徒・教職員のみでの実施を判断せざるを得なくなりました。また、実施内容についても、県教委のガイドラインを踏まえて一同が体育館に集まることを避けるなど様々な制限を掛けることになりますがその点については、君たちもしっかりと受け止めてください。そして、制限が掛かる中であっても、生徒会執行部や学園祭実行委員会を中心に島前校らしい学園祭を作り上げてくれることを期待します。

以上、2学期始業式の式辞とします。

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