校長室より

【「できる人」は「誘われる」】

成人年齢引き下げの議論の際にマスコミが大きく取り上げたのは「選挙」「少年法」「飲酒・喫煙」などの点が多かったように記憶している。実際に成人年齢の引き下げが行われ1年あまりが経過したが、最近の報道では高校卒業後に巻き込まれるトラブルとして「消費者契約」に関する報道が多いと感じている。

いわゆる「大人」もだまされ、被害が後を絶たない現状において、成人デビュー間もない18~19歳がターゲットにされる可能性が高いことは簡単に想像ができる。実際の被害としては「夢を叶えるために」といううたい文句で「エステティックサービス」、「ボーカルレッスン」、また「簡単に儲かる」という誘い言葉で「内職・副業」や「投資商品」等の儲け話、加えて「SNSきっかけ」の知り合いからの勧誘に関するトラブルが増えているらしい。

というのも、成人年齢引き下げによって「18歳からひとりで契約ができる」こととなったからが大きな要因であろう。これまでは民法の「未成年者取消権」によって親などの同意のない契約は取り消し可能とされていたため、これが防波堤となり18~19歳はそもそも「ターゲットにされない」立場にあった。だが、「契約ができる」状況となり、勧誘の際にクレジットカードを作り、代金を支払い、後になってだまされたことに気づくという事件が多発している。「できる」人は「誘われる」ということである。お金が絡むことなのだが「アルバイト代でなんとかなる範囲」と安易に考えたり、「いつでも解約できます」という内容を鵜呑みにしたり、契約の際に親との相談をしなかったパターンも多い。相手も狡猾で最初に多額の支払いをカード分割払いやキャッシングによる一括支払いを勧め、最初数ヶ月は契約通りに物事を運ぶ。そして、しばらく後に解約は可能だが一部返金しかできない状況となった時点で…といったことも。

このような現状から考えてみると、高等学校は3年生になると毎月クラス内に「成人」が誕生している状況である。このような生徒たちが「被害者」「加害者」とならないためにも3年次における消費者教育(特に契約)が重要ではなかろうか。1年次に学ぶ「公共」や「家庭基礎」の授業の中で当然「消費者問題を考える」という単元学習も行われている。だが、学んでから数年が経過していること、加えて人の脳は「自分は大丈夫」(正常性バイアス)という方向に働きやすい。クーリングオフという名前は知っていても、「伝家の宝刀」と思い込んでいては、後の祭りとなってしまう。

4月の始業式の際、「授業を通じて学ぶことをより大切に」「自分事として捉える」を生徒に語りかけた。今後は加えて「私だけは大丈夫を疑う」(立ち止まる・断る・相談する力)を語りかけたいと思う。

この記事をシェア